年末年始だからこそじっくり読みたいミステリ小説5作品(国内編)
さて、師走12月は大衆文学にとっても、慌ただしい季節だといえる。というのも、日本文学振興会が主催する直木三十五賞(通称・直木賞)の下半期分候補作が公表され、年明け1月の受賞作決定に向け、出版界にさまざまな下馬評が飛び交う月でもあるからだ。
■小川哲「君のクイズ」(朝日新聞出版)
第168回となる今回も、すでに5編が発表されているが、そのなかで1歩リードを囁かれ、本命視されているのが、同賞の候補になるのは「嘘と聖典」に続く2度目となる小川哲である。
「ゲームの王国」で日本SF大賞と山本周五郎賞に輝き、また今回の直木賞候補作「地図と拳」でも既に山田風太郎賞といった文学賞を射止めている。しかしここでは、思い切ってミステリ方面に舵を切った「君のクイズ」(朝日新聞出版)をご紹介したい。
テレビで生放送のクイズ番組で決勝に残った主人公の三島。しかし、もう1人のファイナリスト本庄は、あろうことか、1文字たりとも問題が読まれないうちにボタンを押し、正解する。負けた理由が理解できない三島の心中には、八百長疑惑までもがちらつく。対戦相手はいかにして奇跡の正解にたどり着いたのか、主人公は憑かれたように真相解明に乗り出すが。
ミステリといえば、密室殺人や鉄壁のアリバイという不可能犯罪が多くの読者を魅了してきたが、本作が提示する謎もまた極上のものだ。主人公は、靴をすり減らして捜査を続けるベテラン刑事よろしく、天才クイズ・プレイヤーの来し方を執念の調査で詳らかにしていくが、やがてそれが自身を再発見する物語とも鮮やかに交叉する。クイズ番組の舞台裏を覗く興味で読んでも初めての知ることの多さに圧倒される。
■鵺野莉紗「君の教室が永遠の眠りにつくまで」(KADOKAWA)
ミステリを志す作家志願者の登竜門といえば、日本のミステリ史を築いた2大作家の名前をそれぞれ冠した公募型の文学新人賞があるが、今年はその一方の江戸川乱歩賞からは、史上最年少という話題とともに23歳の新人作家・荒木あかねが「此の世の果ての殺人」でデビューした。
しかし、もう一方の横溝正史ミステリ&ホラー大賞も負けてはいない。選考委員の綾辻行人と有栖川有栖が「企みに満ちた作品」と口を揃える鵺野莉紗が見出されている。
優秀賞受賞作の「君の教室が永遠の眠りにつくまで」(KADOKAWA)の舞台は、北海道の山間部にある小都市だ。町では、正体不明の雲が30年以上にわたり上空に留まるという不可解な現象が続いている。小6の葵は、ある出来事から同級生で親友だった紫子と仲違いしてしまい、紫子は転校してしまう。