「体罰ではなく暴力」遺族の訴え 桜宮高バスケ部員自殺から10年
■スポーツ強豪校の空気
「10年がたちましたが、やはり時間の経過により(事件が)風化していると感じています」
父親は近年も部活動での指導者による暴力が相次ぎ、息子を死に追いやった桜宮高校の事件が顧みられていないことを嘆く。
今年9月、兵庫県姫路市の姫路女学院高校ソフトボール部で女子部員が元顧問に顔をたたかれ、顎が外れる重傷を負った。10月には和歌山県立和歌山商業高校野球部でも、男子部員が元監督から頭をバットでたたかれ、けがをした。どちらも桜宮高校と同じスポーツ強豪校だ。
男子生徒はキャプテンとして全国大会の常連チームを率いながら、顧問の日常的な暴力に耐えていた。父親は事件前の自身を「『体罰』に違和感を覚えていたものの、異議を唱えられなかった一人」と悔いる。
桜宮高校は公立高校では数少ない体育系の学科を持ち、事件前は部の成績が指導者の評価や生徒の進路につながった。教員や保護者の間に漂っていた、顧問の暴力を黙認する空気が男子生徒を追い詰めた。
父親は「教育現場の学校から、アスリート育成の場になっている部活動を切り離さなければ、指導者の暴力、暴言は無くならないのでは」と問いかける。
■平手打ち十数回
指導者からの暴力を「体罰」と表現する教育現場や報道にも違和感を抱く。男子生徒は自殺前日の練習試合で、顧問からプレーの出来を理由に十数回平手打ちされ、口の中などに全治約3週間のけがをした。事件発覚後、当時の橋下徹大阪市長は顧問の行為を「完全な暴力行為」と指弾した。
父親は「一般社会で上司が部下を暴行したら捕まり罰せられる。なぜ教育現場では教師や指導者から生徒への暴力が『体罰』と扱われるのか」と指摘する。
指導を口実にした暴力が絶えない現状には「悪いことをしたのだから、教育や指導の一環だから、暴力をふるっても良いのか?」と疑問を突き付け、「息子は体罰ではなく暴力を受けたと思っている。今も続いている部活動で起きた事案はすべて暴力として扱うべきだ」と訴えている。
桜宮高校バスケ部員自殺 平成24年12月23日未明、男子バスケットボール部主将だった2年の男子生徒が自宅で自殺。顧問の男性教諭から暴力を受けていたことが判明した。教諭は懲戒免職となった後、傷害などの罪で在宅起訴され、懲役1年、執行猶予3年の有罪判決が確定。遺族は体罰が自殺の原因だったとして大阪市を相手取り、総額約1億7400万円の損害賠償を求める訴訟を東京地裁に起こし、地裁は市側に計約7500万円の支払いを命じた。