【インテリアブランド名鑑】イタリアンモダンの雄〈カッシーナ〉の現在。
世界屈指の豊かなインテリア文化をもつ国イタリア。〈カッシーナ〉は、そのムーブメントの先頭を走り続けてきたブランドだ。過去の蓄積をさまざまに生かし、現在もシーンの中心にあり続けている。
イタリア・ミラノの北に位置するメダで1927年に創業した〈カッシーナ〉は、当初は木製の小型コーヒーテーブルなどを製造していた。やがて第二次大戦後からフランコ・アルビニをデザイナーに起用したのを転機として、先端的なモダンデザインと卓越したもの作りの融合をブランドの強みにしていく。
1957年発表の《スーパーレッジェーラ》を手がけたジオ・ポンティはじめヴィコ・マジストレッティ、マリオ・ベリーニ、アフラ&トビア・スカルパといったイタリアの気鋭たちとのコラボレーションは以降も続き、それらは今なお〈カッシーナ〉の大きな財産だ。
木工を礎にしながらも、60年代からソファにモールドポリウレタンを採用し、近年は環境負荷の低いクッション材を実用化したりと、素材や技術の革新も他を先んじてきた。
1973年にスタートしたイ・マエストリ・コレクションは〈カッシーナ〉のもうひとつの財産だろう。その起点になったのが、65年に実現した、建築界の巨匠であるル・コルビュジエに関する家具の製品化だった。これは彼が晩年に〈カッシーナ〉と復刻の契約を結んだもので、ピエール・ジャンヌレとシャルロット・ペリアンとともにデザインした一連の鋼管家具がきわめて高いクオリティーで量産されている。イ・マエストリ・コレクションは、同様のアプローチで歴史的デザインの権利継承者や専門家の協力を得て、イタリア内外の貴重な過去の遺産を掘り起こしてきた。
2015年には、パトリシア・ウルキオラがブランドのアートディレクターに就任。90年代からフィリップ・スタルクはじめ国外のデザイナーとも積極的に協業する〈カッシーナ〉だが、その発信に彼女のセンスが加わって、より未来志向のデザインが増えてきた。
さらに現代の新作と過去の名作を切り離すのではなく、互いに調和し対話するような住空間のあり方を提案して、「カッシーナ・パースペクティブ」という言葉で表現している。ブランドとしてのテーマやスタイルをあえて設定せず、多様なテイストの折衷の中に暮らしの楽しみを見出そうということだ。