ウォーホルも愛用したカルティエの《TANK》|高木教雄の名作時計デザインの秘密
ポップアートの旗手、アンディ・ウォーホルも愛用していたカルティエの名作時計、《TANK》。
独自の道を切り開いたウォーホルらしく、使い方も人とはちょっと違っていた。
さて、どんな使い方をしていた?
1. 時計を動かしていなかった
2. 文字盤を真っ白く塗りつぶしていた
3. 重ね付けしていた
正解は 1!
「時計を動かしていなかった」です。
「僕がタンクを着用するのは、時間を知るためじゃない。タンクは、身に着けることに意味があるんだ」──ポップアートの奇才アンディ・ウォーホルは、究極のシンプルにしてエレガントな《タンク》をこよなく愛したコレクターとして時計ファンには知られる。そのデザイン性に純粋に惹かれた彼は、ゼンマイを巻き上げることなく止まったまま身に着けていたという。つまりウォーホルにとって《タンク》は、腕時計を超えた存在であったのだ。
第一次世界大戦さ中の1916年12月、ルイ・カルティエは新たな時計デザインのアイデアを思い付いた。モチーフとなったのは、この大戦で導入された戦車=”タンク”である。翌年に描かれた最初のデザインスケッチは、正方形の左右の辺を上下に伸ばした4本の直線だけで構成されていたという。彼は、真上から見た戦車のフォルムを、幾何学的でシンプルなシルエットに落とし込んだのだ。そして1919年、最初の《タンク》が発売される。上下に突き出す4本の縦線が、ストラップを留めるラグ。アール・デコの言葉がなかった頃、ルイ・カルティエは簡潔な直線でケースとラグとを完璧に調和させたのである。さらにダイヤルとラグ間の幅を同じにし、そこに取り付けるストラップをも融和させた。これは腕に着けるという機能の純化。《タンク》は、モダンデザインの機能美も、先駆けていた。