ザ・インタビュー 「つなぎ目」はあえて強調 美術家・加藤泉さん著「寄生するプラモデル」
それは、世界のアートシーンで注目される美術家、加藤泉さんを象徴するモチーフ。でも近作の木彫を見ると、動物や昆虫などのプラモデルが、背中や頭上にちょこんとくっ付いている。この奇妙で愛らしい作品は何?
興味がわいた方は、ワタリウム美術館(東京都渋谷区)で開催中の個展「寄生するプラモデル」でぜひ確かめてほしい。作家がこの数年取り組んできた、プラモデルをめぐるアート作品をまとめて実見する好機といえる。これら作品の多くは国内で発表されないまま、世界各地へ旅立ってゆくからだ。
本書は同展のカタログであると同時に、今回展示されていない作品も含め、初めて加藤さんのプラモ関連の全作品を網羅。その〝全景〟を明らかにしている。
「僕くらいの世代の男の子は皆、通ってきた道じゃないかな」
プラモデルには子供の頃から親しんできた。ただ、自身の作品に「使う」アイデアは、新型コロナ禍の中で生まれたという。
「展覧会が延期や中止になって、久々にゆっくりプラモデルを作っていた。ネットオークションのサイトを調べると、動物や昆虫など昔の変なプラモがいっぱい出てきて…毎日のように〝大人買い〟(笑)。作るうちに、これは作品に使える、と木彫にひっつけてみた」と振り返る。
抽象的な人型(ひとがた)と、リアルに作られた生き物の組み合わせが新鮮で面白かったという。が、「なぜ面白いかはまだわからない」とも。
使うのは主に1950~70年代の、欧州や米国などで製造されたビンテージのプラモデルだ。「昔のプラスチックの方が硬くて、色もきれい。買うときは基本的に〝箱買い〟です」と笑う。動物などを描いた箱の絵にも味わいがあり、ワタリウムの展示では箱や組立説明書の絵を生かした加藤さんの平面作品も紹介している。
「ジオラマシリーズ」と名付けられた、風景と彫像、プラモデルが三位一体となった作品群が楽しい。絵画に始まり木彫、石やソフトビニールの作品など素材やジャンルを軽やかに横断する加藤さんだが、作品に風景・背景が現れることはほぼなかった。「物語が発生するのを極力抑えたい。でもプラモデルにはジオラマというジャンルがある。だから今回はギリギリOKということで」
アーティストはプラモデルの〝常識〟をも壊す。古いプラスチックの色味を生かしてあえて着彩せず、つなぎ目は消すのではなく逆に強調。「良く言えば新しい。悪く言うなら、邪道」と自虐気味に言い放つ。
ついにはオリジナルのプラスチックモデルも作ってしまった。どこにでもある石をプラモデルにし、加藤さんの絵(シール)を貼り付けると作品になるという。普通の大人にはない発想に「いわゆる中二病(笑)」。芸術家はプラモの概念を軽やかに超えてゆく。
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かとう・いずみ 1969(昭和44)年、島根県生まれ。90年代半ばから絵画を発表し、2000年代以降、木彫をはじめ立体作品も制作する。ベネチア・ビエンナーレ国際美術展(07年)を機に海外でも注目され、世界各地で個展を開く。現在、東京と香港を拠点に活動している。展覧会「加藤泉-寄生するプラモデル」は3月12日まで。