唯一無二の表現追い求めた、兵庫・芦屋発祥の前衛美術集団「具体」 解散半世紀、あせぬ魅力
■田中敦子さん研究書、独創性生んだ軌跡たどる
「作家は一人で作家にはなれない。関係性の中で作品をとらえる視点が必要だ」と語るのは、大阪大学総合学術博物館招へい准教授の加藤瑞穂さん(55)=近現代美術史=だ。具体の研究書「田中敦子と具体美術協会 金山明および吉原治良との関係から読み解く」(大阪大学出版会)を出版した。
主要メンバーとして国際的に評価された田中敦子さん(1932~2005年)は、色とりどりの電球が不規則に点滅する「電気服」を56年に発表した。ベル20個を2メートル間隔でつなげ、来場者がスイッチを押すと順番に鳴る「作品」(55年)、多様な円の絵画などを手がけた。
本書は、田中さんの才能を見いだし、夫婦としても支え合った具体の元メンバー金山明さん(1924~2006年)や、やがて2人が決別する具体のリーダー吉原治良(1905~72年)との関係に着目。互いに与えた影響や時代背景を掘り下げ、その独創性を生み出した過程を詳細に示す。
フルカラーで作品や写真などの図版を多数掲載。田中さんの肉声の記録は数少ない中、芦屋市立美術博物館での回顧展に伴う01年のトークイベントの書き起こしも収録した。同館学芸員だった加藤さんが聞き手を務めており、関西弁で笑いも誘いながら語る創作の逸話が興味深い。「私は無機的ですね」との語りが、自作の特質を示している。
「具体はアクションや物質性の強い作品という定型のイメージを持たれがちだが、作家には個別の魅力がある。『多様な見方があるよ』と示したかった」と加藤さん。「まだまだ研究されていない作家がいる。これから魅力を掘り起こすきっかけになれば」と語る。
A5判、400ページ。7920円。大阪大学出版会TEL06・6877・1614
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■地元ダンサー理念を表現 21日、芦屋でイベント
具体の理念を次世代に伝えるイベント「GUTAIというなにか」が21日、芦屋市業平町のルナ・ホールで開かれる。AAPアシヤアートプロジェクト実行委員会が主催。2025年の大阪・関西万博を前に、具体が1970年の大阪万博で試みた表現などを振り返り、その意義を捉え直す。
具体は、芦屋公園といった屋外や舞台での表現にも積極的で、70年の大阪万博では「具体美術まつり」などと題して発表した。
イベントは午後0時10分に開幕。第1部では茨城県近代美術館の乾健一学芸員が「1970年大阪万博と前衛美術-万博といかに関わるか、前衛の分岐点-」と題して基調講演する。
第2部では、具体の光や音、アクションを交えた企画「舞台を使用する具体美術」(57年)などから着想したオマージュ作品「大きな大きな大きな広がりの中へ」を試演。芦屋市を拠点にコンテンポラリーダンスカンパニー「アンサンブル・ゾネ」を主宰する岡登志子さんが構成・演出し、ダンサーや美術家らが演じる。
第3部のトークセッションでは、加藤瑞穂さんのほか、具体に所属した美術家今井祝雄さん、美術史家富井玲子さん、実行委員の加藤義夫さんらが「1970年大阪万博と具体」をテーマに語り合う。
一般2000円、中学生以下500円。予約はAAPのウェブサイト(https://ashiya-art.wixsite.com/website)から。AAPの事務局TEL0797・38・7335