東京都人権部による飯山由貴作品の検閲・上映中止問題。人権部に署名と要望書を提出
本件は東京都の外郭団体である公益財団法人「東京都人権啓発センター」が主催し、都の施設「東京都人権プラザ」で開催された飯山由貴による「あなたの本当の家を探しにいく」にまつわるもの。同展の附帯事業として上映会とトークイベントが計画されていた飯山の映像作品《In-Mates》(2021)が、作品内で扱われる、関東大震災時の朝鮮人虐殺という歴史的事実への懸念等から、東京都人権部により作品上映が拒絶されたものだ。
手渡された署名は、オンラインのプラットフォーム「change.org」で集められた。正式名称は「東京都人権部は、歴史的事実を扱う作品への検閲を、二度と繰り返さないでください。在日コリアンへの差別という重大な問題を起こしたことを謝罪し、公開を中止した作品の上映を行ってください!」とされ、3万筆以上が集まった。
署名と同時に手渡された要望書に記されたおもな事項は次の4つとなる。1つ目は「《In-Mates》の上映と出演者によるトークイベントの実施を求めます」だ。これは附帯事業の事業計画書の第一案に記されていたかたちでの《In-Mates》の上映と、出演者によるトークイベントを改めて実施することを求めるもの。
2つ目は「東京都に本件の調査と説明及び謝罪を求めます」。昨年10月28日に東京都総務局から都議会議員及び報道関係者に向けて発表された本事件の説明文書だが、飯山によればこの説明文書には虚偽が見られるという。この説明文書で都は企画展「あなたの本当の家を探しにいく」の趣旨を「障害者の人権」とし、その内容にそぐわなかったため中止を判断したという説明をしているが、この趣旨は企画展の事業計画書内に記されておらず、これは上映中止を目的に「後出し」で設けられたものだと飯山は指摘している。このように、現状では不透明な上映禁止にいたる経緯を明らかにし、当該問題について都民に対する説明の機会を設け、信用を落とすこの行為について都民に謝罪することを求めている。
3つ目は「東京都総務局人権部による上映禁止決定の理由について、説明と謝罪を求めます」だ。憲法21条2項に定められた検閲の禁止や、15条に規定された「全体の奉仕者」であることに東京都総務局人権部職員が向き合い、在日コリアンならびに障害者との複合差別に関する表現の機会を強く制限したことについて、説明と謝罪を要求している。
そして4つ目は「東京都人権啓発センターの専門性を尊重することを求めます」。東京都総務局や人権部が、東京都事件プラザ主催事業の展示や附帯事業に対して、その企画趣旨、作品の内容、作家性、作品に関係する共同体を尊重することを約束してほしいと求めている。
人権部への署名と要望書の手渡しの後、飯山、《In-Mates》に出演したラッパーのFUNI、そして《In-Mates》内で在日朝鮮人の歴史を解説した東京大学大学院総合文化研究科の外村大の代理として大阪公立大学の明戸隆浩が参加し、記者会見が開かれた。
本会見で飯山は事件の経緯をあらためて説明するとともに、欠席した外村のつぎのような要望を読み上げた。「東京都人権部の説明を重ねて求めているが、いまだに回答がなされていない。これは人権部の職員がこの問題を大したものとしてとらえていないのではないか。もし、作中の『無実の朝鮮人が相当数殺された』という箇所を問題視しているのだとしたら、歴史的研究にもとづいて明らかにされている事実について人権部が疑義を唱えていることになる。これは東京都に住む民族的なマイノリティに対して恐怖を与えるものだ」(飯山読み上げのテキストを要約)。
また、FUNIは署名、要望書を手渡したときの人権部の反応の薄さから、次のような想像をしたと語った。「在日外国人である自分の子供が『朝鮮人虐殺なんてなかった』と言い始める、そんな未来さえ想像してしまった。それについての危機感を表明したい」。
飯山は引き続き東京都に説明を求めるとともに、今後は小池百合子東京都知事への要望書の提出なども検討したいとしている。