韓国50万部の勉強本 本当のライバルは「昨日の自分」 心構えひとつで勉強が面白くなる
主に資格試験などを目指すビジネスパーソンや社会人向けに効率的な勉強法の本を出版してきた同社だが、勉強本で「ノウハウなし」という例はない。しかし、韓国の教育機関が13歳から19歳の378人を対象にした調査によると、同書を読んだ後「勉強したくなった」と答えたのは372人(98・4%)、「特に勉強したくはならなかった」は6人だけだったという。
「ノウハウありきではなく、中高生に支持される不思議な魅力がある本」
担当編集者の武井康一郎さんは、次世代の読者を獲得したいと日本での出版に向けて動いた。
本のなかでは、具体的なノウハウではなく、著者の勉強に対する考え方を説いていく。
第1章は、冒頭から《もう手遅れだ》と、周囲と差が付いているであろう読者に厳しい現実を突きつける。自堕落な学生だった著者もその絶望感を味わったからこそ、「後輩」たちに勉強する強い覚悟を求め、諦めるなと励ます。著者が自分の人生を見つめ直し、勉強できる幸せに気付いた経験を通じて、「諦めかけていたことを、最後までやってみたい気持ちにさせられる」(武井さん)。
受験勉強で、ライバルに競争心を燃やす人は多いだろう。ところが、同書は《ライバルはやる気を吸い取る吸血鬼》だと問題視する。ライバルを原動力にすれば、相手の好不調に一喜一憂し、心が不安定になるからだ。
その上で、ライバルとではなく、「昨日の自分」との競争をすべきだという。《自らをありのまま受け入れ、自分を振り返って足りない部分を埋め、自分を成長させる》ためだ。
中高生向けに、かみ砕いた表現で語り掛ける文体だが、分量は300ページにも及ぶ。著者は一気に読み切るのではなく、勉強の合間に1章ずつ読むように勧め、「自分が勉強する理由」をじっくり考えてほしい、と読者に呼びかける。
韓国で2015年に発売。インターネット書店の教保文庫では10点満点中9・7の高評価で、今も書き込みが続くロングセラーで、今年50万部を超えた。
日本では22年5月に出版後、動画投稿サイトのユーチューブで、お笑いタレントの中田敦彦さんが「ゴリゴリの精神論本」と紹介するなど話題を呼び、12月までに8万部を超えた。
この間、新型コロナウイルスの感染拡大で、休校やオンライン授業など教育環境は急激な変化にさらされた。「学校で学ぶことが当たり前でなくなり、自ら学ぶ姿勢が求められるようになった」(武井さん)時代背景も、受験生や保護者の共感を呼んだとみられる。
ツイッターなどSNS上には、受験生や資格、語学試験を受ける人など、さまざまな読者が感想を寄せている。
「諦めかけたり心折れたりしていた人が、本を読んで奮起している。その背中を押したい」
武井さんも書名のツイッターアカウントを作り、読者のつぶやきにエールを送っている。(石川有紀)