なくせ部活指導者の暴力 現場の取り組みは
■「風化させない」
桜宮高校では事件以降、各部の顧問同士で部の運営状況を確認し合う場を定期的に開き、教職員向けに怒りを制御する「アンガーマネジメント」などの研修も毎年実施。暴力的な指導の土壌となった「勝利至上主義」への反省から、部の成績を顧問の評価には反映させず、選手の自主性を重視する「選手第一主義」への転換を図ってきた。
今月20日には、事件の発生後から毎年続ける男子生徒の追悼集会を開き、10年の節目を前に、報道各社に初めて公開。男子生徒が暴行を受けた体育館で、教職員や生徒ら約900人が黙禱(もくとう)した。
森口愛太郎校長は「当時の状況を直接知る者が少なくなった今、痛ましい事案を風化させてはならないという強い決意を確認する場としたい」と呼び掛けた。
近年も複数の部が全国大会に出場している。校舎には活躍を祝う垂れ幕がかかるが事件以降、暴力的な指導は起きていないという。
サッカー部顧問の東塚雅伴(とづか・まさとも)教諭は「暴力で従わせる指導では、部員に自主的な努力をさせることはできない。試合で勝つことも大事だが、部員には人間的に成長し、卒業後に世の中で活躍できる人になってほしい」と期待する。
■続く被害
同校の事件を受けて始まった文部科学省の全国調査によると、学校での暴力的な指導の発生件数は、平成24年度の6721件から減少を続けるが、令和2年度も485件起きている。
教育現場から暴力を完全に排除できない背景について、関西大の神谷拓教授(スポーツ教育学)は、指導者が過去に自身が受けた暴力的な指導を子供たちに繰り返しているとし、「誤った指導方法を矯正する講習などを、教員免許の取得時などに義務化すべきだ」と指摘する。
さらに、指導者が部員に練習計画の立案や課題の解決を任せ、外部指導者や保護者も交えて支えていくといった運営方法を提案。「部員に『自分たちで強くなる』という自治の精神を持たせながら、部の運営をオープンにすれば暴力は排除できる」としている。