家具デザイナー・藤森泰司が〈ナインアワーズ〉を内装設計。家具的な思考から導き出された空間とは?
地下鉄・人形町駅から徒歩2分。下町の風情と近代的なオフィスビルが共存するエリアに、2022年11月1日、〈ナインアワーズ人形町〉がオープンした。地上8階建ての建物の内装設計を担当したのは、家具デザイナーの藤森泰司。デザインするにあたり、藤森がまず感じたのは立地のよさだったという。
「交差点の角地にあって、二面採光が可能なロケーションを活かしたデザインができないかと考えました。カプセル(スリーピングポッド)を主役にした既存のスタイルではなく、ナインアワーズのコンセプトである1h(シャワー)+7h(睡眠)+1h(身支度)という3つの基本行動をつなぐ“導線空間”をインテリアの中心にしようと思ったんです」
具体的には、接道側に生まれた、自然光が差し込むL字型の窓際スペースにロッカールームを配置。ゆるやかなカーブを描くその曲面に、テキスタイルデザイナー安東陽子による、オリジナルファブリックのカーテンをかけた。空のようにも、海のようにも見えるブルーグレーのカーテンは、周囲のビルからの視線を遮る目隠しであると同時に、心地よい“導線空間”を形作る重要なエレメントでもある。
「エレベーターを降りて、安東さんのファブリックに包まれたやわらかい空間を抜けると、それぞれのゲストが思い思いの時間を過ごすパーソナルなカプセルルームに辿り着く。このシークエンスが、これまでの〈ナインアワーズ〉と大きく異なるところだと思います。カーテンは既存の生地を特注色に染色しプリーツ加工を施すことで、透けないよう、また空間に奥行きが出るよう工夫。時間や天候によって変化する、光のうつろいを感じながら過ごしてほしいですね」
「スケールや領域を超えた家具デザインの新しい在り方」を目指す藤森らしい、家具的な思考からの空間へのアプローチ。それは素材選びにおいても、いかんなく発揮されている。例えば、1階ラウンジのカウンターには磨いたバッカー材(板材にメラミン化粧板を貼る際、板が反らないよう裏面に貼る素材)、ロッカーにはMDF、ロッカールームやカプセルルームの床にはPタイル、そしてスリーピングポッドを設置した壁面にはMDF有孔ボード(裏面フェルト貼り)を採用。いずれも汎用性のある素材を一工夫することで魅力的に仕上げている。