綾辻行人さん「空想の恐怖は宝物」、人気シリーズ「 深泥丘奇談」執筆…怪談の依頼に最初は尻込み
<ちちち……と、最初はそう聞こえた。――ような気がした。
不穏な書き出しで始まる「 深泥丘(みどろがおか)奇談」は、2004年に怪談専門誌「幽」で連載が始まった連作短編集。十数年続く人気シリーズとなった。
主人公は、京都に住む中年作家の「私」。古びた「深泥丘病院」で奇妙な医師や看護師に出会い、身辺で不可解な現象が次々に起こる。しかし、肝心な時にめまいが起こり、核心は分からない。>
最初に怪談の依頼を受けた時は尻込みしました。私は本格ミステリーを中心に書いてきた作家。しかも幽霊は信じていない。恨みを残した人間が化けて出るなら、京都は大渋滞でしょう。
ただ、「オチのない話を書いてみませんか」と言われて興味がわきました。説明がつかない、投げっぱなしの小説はどんな感じだろうと。
ちょうどその頃、職場を兼ねた自宅を建てたんです。比叡山麓の、静かで猿や鹿の出るような場所。タイトルから深泥池(北区)の辺りが舞台だと勘違いされますが、実際は地図もゆがませていて、地名も「紅叡山」「黒鷺川」「猫大路通り」と全部変えた。もう一つの「ありうべからざる京都」です。
<「六山の夜」という作品では、送り火の情景が描かれる。夜空に浮かぶのは「人」「永」「ひ」「目形」「虫虫」の文字。今年は五山ではなく「六山」あるといううわさを耳にする。
――「で、その六山めにはどんな文字が描かれるわけ?」「それはね、決まってないの。(中略)文字だったり記号だったり図形だったり、その年によっていろいろ変わるんだって」>
人が多い祇園祭には近づかないのですが、昔からどういうわけか五山の送り火が好きでした。昔は「十山」だったとか、なぜあの形になったのかとか、謎も多くて、毎年見ていると、六山目があったらどうだろう、と妄想が膨らんでくる。