錨(いかり)の伝統技術を暮らしに活かし、次世代へ繋ぐ。港町の新スポット〈santo〉の試みとは?
瀬戸内海の中央に位置し、広島でも有数の観光地である鞆の浦は、古くから中国地方最大の港町として栄えた土地。多くの船が潮の満ち引きを待つ「潮待ちの港」として賑わい、江戸期にはこの一帯に船や錨を修繕する船鍛冶が軒を連ねたという。
昭和40年代には大規模な「鞆鉄鋼団地」が造成され、現在も70軒以上の鉄工所が集まるまさに“鉄の町”だ。この地に長く受け継がれてきた「鍛造」の技術を活かし、家具や調理器具などライフスタイル商品を発信するのが、昭和26(1951)年創業の鉄鋼メーカー〈三暁(さんぎょう)〉。家具ブランド〈TAonTA〉やアウトドアブランド〈cocinero〉を立ち上げ、現代のライフスタイルに溶け込むオリジナルアイテムを手がけている。
さらに2022年夏には「道具を作って、使う」をテーマにしたオープンファクトリー〈santo〉をオープン。両ブランドの商品を展示するほか、鍛造体験コースも開催。ものづくりの価値を伝えるフラッグシップショップとして成長中だ。
そもそも、〈三暁〉がこうした事業をスタートしたのは、2016年に職人の高齢化のため廃業が決まった鉄工所を譲り受けたことがきっかけだった。錨の需要が減少していることもあり、昔ながらの「鍛造錨」を造る鉄工所は今や全国でも数軒だけ。「その1軒が廃業すると知り、この地に古くから続く「鞆鍛治」の技術を次世代に伝えたいと、そしてものづくりで生きていくというライフスタイルを残さなくてはという思いから、自社の新部門として引き継ぎました」と、〈三暁〉の三代目代表・早間寛将(はやま ひろまさ)さん。
鍛造部門の職人は、前鉄工所時代から勤続する50代の熟練職人と、彼をサポートしながら技を学ぶ20代数名のチーム。彼らの技術が核となり、オリジナルアイテムの開発を進めている。