韓国50万部の勉強本 読んだ中高生9割が「勉強したくなった」 日本にも上陸した魔法の一冊
高学歴志向が根強い韓国で名門大に入るためには、小学生から塾や進学校が集まるソウル市内中心部に住み、毎日遅くまで塾や習い事に通うのが当たり前。しかし著者は、山と海に囲まれた塾もない田舎から、超難関のソウル大法学部など名門大の合格をつかむ快挙を成し遂げた。しかも、「秘密の奥の手」も「確固たるノウハウ」もないと断言する。「心構え」だけで勉強が十分面白くなった-と持論を展開する。
韓国での出版は2015年。出版当初、全国からエリートが集まる民族史観高校の学生たちが繰り返し読む「バイブル」とメディアで紹介され、部数を伸ばした。朝鮮日報は書店ランキング1位を記録した20年9月の書評で、「(受験塾が集まる高級住宅街)江南(カンナム)の母の必須本」と紹介。出版社代表の話として、江南の母親たちが5冊ずつ買い「父母がそれぞれ1冊持ち、子供に読ませるためにかばんと本棚、トイレに置く」という話が広まり、飛ぶように売れたという。
50冊に上る韓国の書籍を手掛けてきた翻訳家、吉川南さんは、「ノウハウなしで、勉強自体の面白さを強調しているのがユニーク」と話す。幼い頃から遊ぶ間もなく勉強漬けの生活を送る韓国の子供たちにとって、勉強はしなければならない「苦行」であって、「面白い」という発想自体が新鮮に映ったようだ。
同書は、勉強する目的は点数や順位を上げることではなく、心を強くし、自分の人生も成長させる「心の鍛錬」だと強調。著者が勉強に目覚めた経験と、世界の著名人らのエピソードも交え、環境や条件にかかわらず学ぶ心構えの重要性を説く。
だが、主な読者層の受験生を含むZ世代を取り巻く社会環境は日韓で大きく違う。日本で、韓国の勉強本が受け入れられたのはなぜなのか。
「夢を持ちにくい時代に生きるZ世代に、勉強する動機付けを与えるのは難しいからだろう」と吉川さんは推し量る。韓国では優秀な大学を卒業しても就職難に苦しむ若者が多い。日本でも大半の若者が大学に行くが、低成長社会で将来は見えにくい。先行き不透明な時代に、子供に勉強させたい親心をつかんだといえそうだ。
中高生向けの読みやすい本だが、日本の出版元のダイヤモンド社には、12~78歳まで読者はがきが届き、幅広い年齢層に読まれていることがうかがえる。吉川さんも、学生時代に留学の機会を得られず、会社勤めを経て留学した自らの経験と重ね、共感を覚えたそうだ。
「やろうと心に決めて、やればできる。境遇を言い訳にせず、勉強すればいいんだというメッセージに、背中を押してもらえる」。吉川さんは、受験生だけでなく、夢に挑戦する大人にも薦めたいという。(石川有紀)