経済思想家・斎藤幸平「今こそマルクスの復権を」:資本主義と決別、「脱成長コミュニズム」が世界を救う
2020年に刊行した『人新世の「資本論」』は、発行部数50万部超のロングセラーだ。日本での大反響が海外でも注目され、今春、英訳版も刊行される。著者の斎藤幸平氏は、資本主義を温存すれば、深まる気候危機は文明の存続をも脅かすと警鐘を鳴らし、危機を乗り越えるためのカギはマルクス晩年の思想にあると唱える。そのビジョンと、理論実践の課題について聞いた。
「人新生(ひとしんせい)」とは地質学用語で、人類の経済活動の痕跡―斎藤氏によれば「資本主義が生み出した負荷や矛盾」―が地球を覆った時代だ。資本主義が格差問題と気候危機の根本原因と断じてその弊害を検証し、新たなビジョンとして「脱成長コミュニズム」を提示したのが『人新世の「資本論」』(以下、『人新生』)だ。
だが、抽象的な理論を振りかざすだけではない。「現場」から学ばなければと、コロナ下の2年間、ウーバー配達員を体験したり、シカの解体を手伝ったりと、日本全国の現場に足を運んで取材した。その知見をまとめた『ぼくはウーバーで捻挫し、山でシカと闘い、水俣で泣いた』も好評だ。1月刊行の『ゼロからの資本論』は、発売後3週間で15万部を突破した。
単行本は1万冊売れればヒットといわれる中で、カール・マルクスの思想をベースにした著書が相次いでベストセラーになる現象の背景に何があるのか。
コロナ禍が追い風になったと斎藤氏は言う。「パンデミックは、これまで累積していた社会の矛盾を可視化しました。経済格差と環境危機です」
環境破壊により人間の生活圏にもたらされた未知のウイルスが引き起こしたパンデミックで、世界人口の99%の所得が減少。感染リスクにさらされながら働くエッセンシャルワーカーの待遇の悪さも表面化した。一方で富豪たちは資産を増やし、いまや、上位1%の富裕層が全体の38%の資産を独占している。
「生活は厳しくなるばかりで、雇用は不安定。将来の不安におびえる中で、社会の仕組みに問題があるんじゃないか、根本から考え直さなければならないのでは、という雰囲気が生まれた。この間誰も批判することのなかった『資本主義』という原因を名指しし、脱成長を打ち出した僕の本が、そのモヤモヤ感の原因を明示したことで、広く共感を得たのかもしれません」