文化芸術界、「口約束」の契約は変わるか? 文化庁が契約書のひな型やガイドラインを公表
映画業界では契約書を交わさないことが「当たり前の慣習」とされてきた。
映像業界の労働環境などを調査する「Japanese Film Project(JFP)」のアンケートによると、契約書や発注書の義務化が必要だと訴える意見は8割以上を占めたという。
書面での契約書がないと、一方的な発注キャンセルや報酬の減額など、本来は契約違反であるようなことが起きてもそれを証明できないなど、仕事を受ける側に予期せぬ不利益が生じる可能性がある。
文化庁はガイドラインのなかで、「コロナ禍において契約書等がないために報酬額や活動機会の減少を証明できず、国の支援を受ける上で大きな支障も生じている」とも指摘。契約書のひな型などの公表を通して、「安心・安全な環境での持続可能な文化芸術活動」の実現を図るとしている。
ガイドラインには、「発注者は受注者の安全に配慮、事故・ハラスメント防止のため責任体制を確立」することも明記された。
契約書のひな型例と解説は、ガイドラインの中盤以降に掲載されている。
業務内容、報酬、権利面についてなど、発注者側である事業者と、個人で活動するスタッフとのあいだの業務委託契約に関する基本的な事項を盛り込んでいる。
俳優や音楽家らでつくる「日本芸能従事者協会」代表理事の森崎めぐみさんは、委員の一人として、契約書のひな型やガイドライン作成を進める文化庁の検討会議で芸能従事者の立場から提言をしてきた。
森崎さんは今回発表されたガイドラインについて、「契約のひな型の内容に関しては発注側と受注側の意図が反映されており、かなり慎重に考えられていて項目も網羅されている。実演家の不利にならないように委員として発言をしてきましたが、その目的は遂げられたと思う」と評価する。
一方で、「ガイドラインは強制力を持つものではまったくなく、契約書のひな型を使うかどうかは事業者に委ねられている」とも指摘。
「これだけで使い切れるという内容にはなっていません。論点だけはきちんと出ているので、ここから先は現場で契約書をつくり、導入する作業が必要です。私たちも周知啓蒙に務めていきたいと思います」と話した。
ガイドラインは文化庁の公式サイトに掲載されている。