日本橋髙島屋で考える、文化的象徴としての「モール」
TOKYOで、ショッピングモールの文化的意義を考察する展覧会「モールの想像力-ショッピングモールはユートピアだ」が始まった。会期は8月27日まで。
これまでの文化批評の文脈において、社会を均質化する存在として批判されることが多かった「モール」だが、本展では、「モール」をカルチャーを育む土壌であり文化的象徴としてとらえている。展覧会の監修者・大山顕(フォトグラファー・ライター)は報道内覧会で、「モールの歴史を掘り下げているわけではなく、モールを通じて色々なことが考えられるのではないかという試みだ」と本展の趣旨を説明している。
展覧会は、「ショッピングモールはユートピアだ」という仮説をもとに、「街」「内と外の反転」「ユートピア」「バックヤード」などのテーマを切り口に展開。大山や本展の協力者のひとり・速水健朗(ライター)による膨大なテキストとともに、映画、音楽、コミック、小説、ゲームなど、モールを舞台とした様々な作品や資料が並ぶ。
例えば展覧会の冒頭では、モールを主要な舞台にしたジョージ・A・ロメロ監督のホラー映画『ゾンビ』(1978)の資料が紹介。大山によれば、同作は「バックヤードと売り場の関係」を象徴する作品だという。「登場人物がバックヤードをセーフゾーンとして、表の売り場に出撃していって、ゾンビを排除してまたバックヤードに戻る。バックヤードは擬似的な家族が描かれる構造となっており、売り場とバックヤードの関係がこれほど鮮やかに描かれた作品はあまりない」。
また、ショッピングモールの父と称されるビクター・グルーエンによるエンクローズド型の商業施設「サウスデール・センター」の外観パースと内観写真や、ジョン・ジャーディが設計したモールの歴史上重要な「グレンデール・ガレリア」をロケ地にしたビリー・アイリッシュの楽曲『Therefore
I
Am』のMVメイキング映像、巨大なモール宇宙船に乗って星々を訪れる3人の女子高生の物語を描いたマンガ『われわれは地球人だ!』の表紙など、モールにまつわる様々な作品や資料を見ることができる。
会場の中央には、イオンモール幕張新都心の最大の吹き抜け「グランドコート」を1/250にし、発泡スチロールと紙袋で制作したアーティスト・座二郎の立体作品《トロ箱のユートピア》(2023)が展示。本展の最後では、モールのバックヤードに着目し、その一部を再現するとともに、玉川髙島屋S.C.のバックヤードで撮影された映像なども紹介されている。
現代都市におけるもっとも重要な公共圏のひとつである「モール」。本展を手がかりに、モールが私たちにとってどのような存在なのか、そこでどのような文化的価値が生まれてきたのかを考えてほしい。