古今東西 かしゆか商店【珪藻土の七輪】
シンプルなつくりなのに大きな効果を発揮する。魔法のような道具が日本にはたくさんありますが、土製の小型コンロ “七輪” もそのひとつです。炭火で焼くだけで、魚も野菜もじんわりジュワーッとおいしくなる。その秘密を知りたくて、江戸時代から続く七輪産地、愛知県三河地方の碧南市を訪ねました。
「秘密はないんですよ。とにかく土のよさですね」と話すのは、昭和初期に創業した〈亀島製陶所〉の3代目、亀島利昌さんと邦恵さん夫妻。2人だけでひと月に数百個もの七輪を作っています。三河地方に伝わる製法を受け継ぎつつも、用いているのは北陸・能登半島の珠洲市で採れる珪藻土。珪藻土というと建物の壁に塗られているのを何度か見たことがありますが、七輪にも使われるんですね。
「産地が違うと土の特徴も変わります。珠洲の珪藻土は熱に強いので、少しの炭でも高温の状態が長く保たれる。食材の一番おいしい旨みや水分を逃がさないんです」
この珪藻土を工房内で砕いたりつぶしたりして細かくした後、プレス機で成形します。ちなみに、プレス機の金型を高温にするための熱源も炭! 熱した型へ土を山盛りに入れてレバーを引くと、一瞬で七輪の形になったものが現れました。少し冷めたものを触るとひんやり。湿った土のような水分を感じます。
「この段階で一度ロクロにかけるのが、昔からのやり方。角の部分を面取りして丸みを持たせ、表面を磨き、触った時に心地いい形に整えておくんです」
それを1か月ほどかけて太陽の下で乾燥させた後、「だるま窯」と呼ばれる洞窟みたいな窯で焼成します。600~700度の低温で素焼きすると、真っ白だった七輪が、オレンジ味を帯びたきれいな茶色に変化。再びロクロにのせて表面を滑らかに仕上げたら、塗装や鉄製の把手付けまですべて手で行って、ようやく完成です。