「生徒が笑って拍手してくれた」と井戸川射子さん 第168回芥川賞・直木賞贈呈式
『この世の喜びよ』で芥川賞に選ばれた井戸川さんは高校の国語教師。賞に決まってから最初の授業で、生徒たちが「笑って拍手してくれた」と喜んだ。その上で「私には怖いと思うことが多くて、かろうじて今ここに立っているような不安定さで生きていることも怖い。その怖さにあらがうために、一生懸命書いていく」と誓った。
東日本大震災を題材とした『荒地の家族』で賞を受けた佐藤さんは、地元・仙台の母親から、頑張ればもう1回取れないか、と激励された逸話を披露し会場の笑いを誘った。「時間や場所とかが隔たっている人たちの間に立ち、その回路となる作家になれたら」と今後の抱負を述べた。
「僕が小説を書いているのはこの何年かだけ。それよりも長い間読者として生きてきた」とスピーチしたのは『地図と拳』で直木賞に輝いた小川さん。「死ぬときも最後は読者。その読者としての自分に応えられるだけの小説を書けたら」と続け、拍手を浴びた。
千早さんは、坑道の中の闇の描写も出てくる受賞作『しろがねの葉』に触れながら、「小説は目に見えないものを書く媒体だと思っている。においや肌触り、人の感情といった写真に写らない、記録にも残らないものを書ける。そういうものをこれからも書きたい」と述べた。