ウォンテッドリー仲暁子の偏愛漫画『新世紀エヴァンゲリオン』|社長の偏愛漫画#7
経営者が座右の書とする漫画作品を紹介する連載「社長の偏愛漫画」。自身の人生観や経営哲学に影響を与えた漫画について、第一線で活躍するビジネスリーダーたちが熱く語ります。
第7回目は、ウォンテッドリー代表取締役CEOの仲 暁子が登場します。
■魂の乾きを知らない碇シンジ君が、大人になった瞬間
両親がテレビアニメ版を観ていたのがきっかけで、小学生時代に一緒に「新世紀エヴァンゲリオン」を観始めました。
中学生になってからコミックス版の『新世紀エヴァンゲリオン(以下、エヴァ)』を読んだときには衝撃を受けたものです。なにしろ1巻の1ページ目から「将来なりたいものなんて何もない」「14歳の今までなるようになってきた」という碇シンジ君の冷めた独白から始まるのです。
シンジ君は14歳、当時中2の私も14歳でした。
いまの若者は、生まれたときからコンピュータもスマホもあって、物質的には満ち足りている人が多いと思います。日本にいる限り、ヒリヒリするほど死を身近に感じることなんてなく、死は日常からはるか遠いところにあります。決められたレールの上で予定調和の人生を歩む若者は、いまこの瞬間、燃え上がるように必死で生きているという実感を得ることは難しい。
中2の私自身も「閉塞感のある日本でこのまま日常を送り、要領よく日々の課題をこなしながら大人になってどうするのかな」と、冷めていました。
『エヴァ』は使徒との対戦シーンも描きますが、内面でうごめく葛藤こそをていねいに描きます。いまでこそ、こういう作品は増えましたが、当時はあまり見当たりませんでした。『ドラゴンボール』でピッコロの内面の葛藤を描いたりしないわけです。
虚無感にとらわれ、毎日生きているのか死んでいるのかわからない。『エヴァ』に出てくるキャラクターに共感し、「冷めてるのは自分だけじゃないんだ」と救われた子は多いのではないでしょうか。
2010年にウォンテッドリーを起業しましたが、いま、多くの若者世代は、日々の仕事をなんとなくこなすだけで、魂の乾き、ハングリーさはない。月曜日が始まると1週間が憂鬱でたまらない。そんな人の心の隙間を埋め、目の前の仕事にドキドキワクワク夢中になってのめりこめるプラットフォームをつくりたい、と思ったのです。
ウォンテッドリーでは名刺に余白を設けていまして、社員はそこに、自分が好きな言葉を印刷できます。シンジ君の有名な言葉を名刺に刻んでいる私は、なにかにつけて『エヴァ』を引用しています。大きなプロジェクトに挑戦するときに「ヤシマ作戦」と銘打って、会社中のリソースを一気に投下して全社員を鼓舞したこともあります。
私にとって『エヴァ』は青春そのものです。シン・エヴァンゲリオンで大人になったシンジ君に少しだけ寂しさを感じながら、人生の大切さをヒリヒリ感じながら一瞬一瞬を生きていきたい。ウォンテッドリーのプラットフォームを通じて、「私はいま生きている」とよろこびを感じる人を増やしていきたいのです。
『新世紀エヴァンゲリオン』貞本義行 角川コミックス・エース(全14巻)
1994年12月より『月刊少年エース』で連載開始。その後、掲載誌を変え『ヤングエース』にて2013年6月に完結し、14年11月にコミックスの完結巻となる14巻が刊行された。現在は『【愛蔵版】新世紀エヴァンゲリオン』(全7巻)が発売中。
聞き手:栗俣力也◎TSUTAYA IPプロデューサー。「TSUTAYA文庫」企画など販売企画からの売り伸ばしを得意とし、業界で「仕掛け番長」の異名をもつ。漫画レビュー連載や漫画原案なども手がける。