高密、濃厚な作品世界 美術作家・大竹伸朗、16年ぶりの大回顧展
会場の東京国立近代美術館(千代田区)に近づくにつれ、ネオンサインが見えてくる。
「宇和島駅」(1997年)
愛媛県宇和島市を拠点とする大竹が、古い駅舎の解体時に譲り受けた現物で、これも作品の一つ。見知らぬ、しかし懐かしい世界に一気に引き込まれる。
展示室でひときわ存在感を放つのが、インスタレーション「モンシェリー:スクラップ小屋としての自画像」だ。ドイツの国際展「ドクメンタ」で2012年に発表したもので、東京では初展示。スナックの看板、大竹がライフワークとして取り組むスクラップブックの巨大版、人感センサーで音を奏でるギター、古びた舟やトレーラーハウスなどで構成されている。
廃材や捨て置かれたもの、雑多な印刷物などを寄せ集めては、思うままに組み合わせ、貼(は)り付ける。こうした手法に加え、「スクラップブック」「音」といった大竹を象徴する要素も入り、集大成的な作品。制作は主に現地ドイツで行い、自らの内面に分け入るように手を動かしたという。「自画像」というのもうなずける。
■原点は切り貼りコラージュ
1980年代のデビュー以来、絵画や立体、映像、絵本、音楽、エッセー、建造物に至るまで、質量ともに圧倒的な作品を残してきた。そんな大竹の原点のような作品がある。9歳の頃、少年漫画誌の好きなキャラクターや活字を切り貼りしたコラージュだ。既成のイメージを使い、自分の見たい景色を作る妙味に目覚めたのだろうか。
今もなお、大竹はありとあらゆるイメージや物質を縦横無尽に貼り付け、「網膜」の立体作品のように濃密な世界を生み続けている。ツルンとしたデジタルの世界とは違い、ゴツゴツと出っ張った世界。
それにしても、どこで手を止めるのだろう。「何か来るんですよ、密度が、向こうから」。終わりは向こうから来るらしい。
80年代のニュー・ペインティングなど美術潮流や時代とシンクロしつつも、大竹が自身の心に忠実に、ブレずに作ってきたことは、展示から伝わってくる。「周りから終わったといわれても、無視して突き進む。20年くらいやると、それが別の層を生み出すんですよ。ものをつくるとき判断基準は自分に正直であること。そして勇気」
移動が難しくなった近年、日々取り組んできたシリーズの最新作「残景0」(2022年)。俯瞰した街のように大小の四角形が表面に現れ、よく見ると紙や木片、真珠などいろんなものが堆積している。全体を覆う赤茶けた色調と、鈍く輝く金粉。複雑なイメージは、日常を積み重ねる尊さにも、それらが破壊された跡にも見える。
2月5日まで。1月10日と月曜(1月2、9日は開館)は休館。
◆おおたけ・しんろう 1955(昭和30)年、東京都生まれ。武蔵野美術大を休学中、北海道別海町の牧場で働いたり、英国で創作を行ったりした。卒業後、82年の個展でデビューし脚光を浴びた。88年に愛媛県宇和島市に移住。国内外で個展を開くほか、ドクメンタ(独)やベネチア・ビエンナーレ(伊)など主要国際展に参加、高く評価されている。