ザ・インタビュー 手応え伝わる「成長アルバム」 作家・町田そのこさん著『あなたはここにいなくとも』
「一年に一作なので修業の場、成長を確認できる場にしたいという気持ちで、当初は本にしてもらえるなんて夢のまた夢。本にするといわれたときは、ちょっとガッツポーズしました」
一連の作品では、密かに「おばあちゃん」の裏テーマを決めていたという。
自分の結婚を楽しみにしていた祖母が急逝し、帰郷した清陽(きよい)。家族への複雑な思いを抱くなか騒動が起きる(「おつやのよる」)。
美鈴の得意料理は祖母直伝の栗の渋皮煮。不倫相手に請われて作るが、それを食べたがっているのは彼の妻だった(「くろい穴」)。
「くろい穴」は本書唯一の書き下ろしだが、デビューのきっかけになったR-18文学賞に応募した3作のひとつ。「自分では受賞作より書ききった自信作で、おばあちゃんも出てくるので」と加えられた。
「デビュー前から最近までの私の成長アルバムみたいな一冊。少し文章がうまくなったんじゃないかと悦に入ったり、一方で昔のほうががむしゃらさがあって、ハッとする文章を書けたんじゃないかと思ったりも」
一番最近の「先を生くひと」は、幼なじみに恋心を抱く女子高生・加代が、老女・澪(みお)との交流から人を好きになることの意味を学ぶ物語。
「書いていてすごく楽しかった。私の作品の主人公はちょっと根暗な人が多いけど、これは困難に猪突(ちょとつ)猛進する明るい女子高生。チャレンジのつもりで筆をとったら、生き生きした女子高生が書けた。まだ私の心も若いなと、ウフフ」
同時に、若者におくる老女のエールも、齢を重ねた人にはしみるはず。
「私も子供が泣いたり悩んだりする姿を見て、『大丈夫、これから楽しいことあるよ』と声をかけたくなる。直接言うのは恥ずかしいけど、伝えたい。そういうことができる小説ってすてきだなと思います」
この新境地ともいえる作品も含めて、「こんなに大きくなりました」と成長の手応えも伝わってくる。
デビューから6年。この間、本屋大賞受賞から今年まで3年連続ノミネート。
「毎回感謝ばかり。書くことが楽しくて、小説を書ければいいという自己満足の塊だったのが、本屋大賞で読者の顔を目の当たりにしてから、この人たちの期待を絶対裏切ったらいけないと思うようになった」
それだけに、「本が書店に並んで感想が届くまでのストレスがすごいんです。大丈夫だろうかと」。
そんなストレスの解消法は「毎晩飲む」という酒。
「缶ビールを一日5~6本。休肝日は2本…ゼロにすると肝臓もびっくりすると思うので(笑)。焼酎を飲めないから九州女の落ちこぼれですが、居酒屋放浪記とか喜んでやりますよ」
迷える酒飲みの背中にそっと手を添えてくれるような作品も読んでみたい。
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まちだ・そのこ 昭和55年、福岡県生まれ。同県在住。平成28年に「カメルーンの青い魚」で「女による女のためのR-18文学賞」大賞。翌年、同作を含む短編集『夜空に泳ぐチョコレートグラミー』で単行本デビュー。令和3年、『52ヘルツのクジラたち』で本屋大賞受賞。同賞では昨年『星を掬(すく)う』、今年『宙(そら)ごはん』でノミネートも。