英国の若者たちが「日本の小説」を好んで読むようになった理由 マンガだけでなく日本文学も人気に
2023年5月、英国の文学賞「ブッカー賞」の翻訳部門にあたる「ブッカー国際賞」の授賞式が開催された。そのとき、主催者からある数字が発表され、会場はざわついた。書籍バイヤーに対する調査によると、翻訳した海外文学の売り上げは2022年、前年比で22%増加したという。
特に、そのほぼ半分を購入したのは、35歳以下の読者だった。この年代層の読者が購入するフィクションの31%以上を翻訳小説が占めており、この数字は伸び続けている。
翻訳小説の未来は明るい。いくつかの出版社の本は「文化的なアクセサリー」として捉えられるようになっている。それほどクールな存在になったのはなぜなのだろうか。
英語に翻訳されて出版される世界中の小説への注目が高まった理由に、ブッカー国際賞の影響があるのは間違いない。同賞が毎年授与されるようになった2016年以降、受賞作品は大きな注目を浴び、売り上げが増えるようになった。
2022年の受賞作、インド人作家ギータンジャリ・シュリーの『砂の墓』(未邦訳)の売り上げは、ノミネート前には500部だった。しかし、受賞後9ヵ月で2万5000部まで伸びた。この作品は、ベッドから出ようとしない女性に関する624ページもの長編で、それにしてはいい数字だ。
2016年の受賞作、韓国人作家ハン・ガンの『菜食主義者』についてはさらに顕著だ。これは奇妙で不穏な方法で、社会からの期待を拒否しはじめる韓国人女性に関する作品だ。同年から同賞の理事を務めるフィアメッタ・ロッコは言う。「韓国語では10年かけて2000部売れた本ですが、英語版は50万部も売れました」
これは偶然ではない。ロッコは次のように語る。「私たちは常に、この賞の存在感を高めようとしてきました。その結果、翻訳小説がより一般的なものになりつつあります。受賞作品の成功によって、以前は“ちょっと難しい”と思われていたこのジャンルへの評価が変わりつつあるのです」
2016年以降の8つの受賞作のうち、6つが独立系の出版社から出ている。ロッコによると、最近の若い編集者や翻訳者は「前衛的」だ。「彼らはスカウトマンで、作品を持ち込んできます」