ジブリ・鈴木敏夫の告白「いつか宮さんと高畑さんについての本を書くのが自分の役割だが、迷っている」
―『読書道楽』は、学生時代の右翼や左翼との交流から『週刊アサヒ芸能』の記者時代、さらに宮崎駿(※崎=たつさき)・高畑勲両監督との仕事など、本の話を通して語られるエピソードも濃厚です。
勉強のために読んだ本は一冊もありませんでした。純粋に楽しいから読んでいた。宮崎駿と高畑勲を理解するために読んだ本にも触れていますが、一緒に仕事をするための手段だったんです。宮さんとは7歳、高畑さんとは13歳離れ、それを埋めるためには、彼らが読んできた本を追体験しなければならない。必要なことでしたが、僕は生来の快楽主義者だから読み始めると面白くなり、別な方面にも読書の興味が移っていきました。
文化人類学者のレヴィ=ストロースが提唱した思考方法「ブリコラージュ」は、「器用仕事」とも訳されるけれど、宮さんを理解するには非常に役に立ちました。純粋理論じゃなく、あり合わせでいろんなものを作るのは、まさに彼の創作作法ですから。
週刊誌時代に、ノンフィクションやジャーナリズムを通して学んだ「リアリズム」も大きかった。宮さんも、高畑さんもリアリズムの追求者です。僕が資料を集め、取材して見つけてきた具体的なアイデアを重宝してくれました。
―「ジブリの功罪」という表現も印象的でした。宮崎さんや高畑さんの映画にたどり着くまでの、日本文化の歴史を解き明かさなくてはならないとも書かれています。
難しいことではないんです。たとえばアニメ『アルプスの少女ハイジ』で美しい自然が描かれますが、映像を見て満足してしまったら、実際の自然に触れることはなくなる。これは矛盾でしょう。
どこかで「漫画やアニメはここまでリアルでいいのか、もっと他愛のないもので終わるべきじゃないのか」と思っているんです。本来、漫画やアニメは大人になる時に卒業すべきものなのかもしれない。
そうならなかったのはなぜか。藤子不二雄さんはじめ、優れた作家が良い物語を作り過ぎたからなんでしょうね。