「風の彫刻家」新宮晋 85歳にして尽きることないイマジネーションの源は
「『イマジネーションはどこから来るのか?』とおっしゃるが、いい気分の時に出てきますね。今でも毎日のように発見しちゃう。何で今までこのことを考えないで他のことばかり考えていたんだろう、ああ時間がもったいない、と思うくらいで。イマジネーションが固定化したらそこから先には行かないでしょうから、芸術家として生きている意味がないと思っています」
作品はいつ生まれるのか。依頼を受けた設置場所を見に行くまでは、頭の中は白紙で何もない状態という。
「現地を見て、『ここに何が足りないか』『何を加えれば空間がより豊かになるか』ということから始めます。最初から『こんなものを作ってやろう』と思うと、まずい。現在クライアントに提案しているものもそうですが、結果なんですね。ここにこんな動きをするものがあったらいいと思い、模型を作ってみたらうまくいった」
「イマジネーションさえあれば、お金や技術がなくとも、そこに何とかたどり着く方法を考える。自分ができることを中心に考え、『これならできる』という部分を伸ばしていっても、高みに行くのは難しいでしょうね」
「風は地球の呼吸」という。自然に学び、作品の原理を考えてきた。
「風は存在することは明らかなのに、それ自体は誰も見ることができない。昔よく使っていた言葉は『翻訳機』です。自然のメッセージの翻訳機みたいなもの。だから無理のないものを作りたい。『こんな形にしてやろう』ではなく、風はこんなことを思っているのかな、意図しているのかな、というのが大事。そうすれば人工物でありながら自然物のように、生き物や山や川、全ての自然と調和するんじゃないかな」
「それを見たら、普段は忙しくて気づかなかった風や水の素晴らしさが感じられるのでは。私と同じようにびっくりしてもらい、驚きを分かち合いたい」
作品は自然のエネルギーを受けて動くことで完成する。
「動いている姿を見て、風や水について『そういうことだったのか』と勉強するんです。自分で作ったのに、そこまで考えてなかったというようなことが必ずある。作れば作るだけ、地球のことが分かってくる。それが次の作品を生むエネルギーになります」
「テクノロジーも重要。長年作っていたら、ベアリング(滑らかに回転させる部品)などは初期から大きく変わっていますからね」
「雲か霞(かすみ)か、風で食っているアーティストです」といたずらっぽく笑う。もちろんそんなことはなく、世界中に作品を納めてきた。ただ、芸術家であることを貫いている。
「本人は楽しんで作りたいものを作っている。クライアントのために作っている気は全くないんです。リスキーと言えばリスキーなんですね。『もう長年やっているんだから安全なものを』と言われても、やっぱり今回は全く違うものを作ってやろうと思う」
「本当に楽観主義者なんですね。底抜けの。アーティストとして、とんでもないものを考えよう、考えようとしてきた。危なっかしい、危険いっぱいの道を歩んでいいんじゃないかと思ってます。一番嫌なのは、功成り名を遂げて、有名になり、大先生になられて、それでおしまい。ずっと夢みたいなことをやって、この年まできたのは奇跡だと思います」