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復刊相次ぐ「伝説の作家・氷室冴子」が戦っていた「三重の差別意識」は今もまだ解消されていない
2023-08-04
復刊相次ぐ「伝説の作家・氷室冴子」が戦っていた「三重の差別意識」は今もまだ解消されていない

 NHKがドキュメンタリーを制作し、大手新聞が取り上げるなど、没後15年のいま、作家・氷室冴子に再び注目が集まっている。「少女小説家」として一世を風靡し、メディアでもフォーカスされた氷室は、先行世代とは何が異なり、何と戦っていたのか――評伝『氷室冴子とその時代 増補版』(河出書房新社)を刊行した書評家・ライターの嵯峨景子氏に訊いた。(前後編の後編)


 ――嵯峨さんは研究書、ブックガイド、書評、インタビューも手がけていますが、氷室冴子に関してはなぜ評伝という形式を取ったのでしょうか。評伝を書いて成立する作家は、いわゆる流行作家でもかなり限られていますよね。

 嵯峨 タイトルの通り「氷室冴子とその時代」を描きたいと思ったんですね。氷室さんは時代によって作風が変わります。初期はシリアスで繊細な作風だったのが、コメディになって一時代を築き、90年代に入るとファンタジーを書き、90年代後半からは過去作品のリライト期になる。そういう変遷を時代背景込みで追うには評伝形式が適切だろう、と。

 ――荒川佳洋『「ジュニア」と「官能」の巨匠 富島健夫伝』は意識していましたか。富島は「cobalt」の前身「小説ジュニア」を舞台に思春期男女の性愛を描いた「ジュニア小説」で1960年代後半に毀誉褒貶の的となり、氷室冴子がデビューした新人賞では審査員を務めていました。『氷室冴子とその時代』と合わせて読むと、少女を熱狂させた作家の世代交代劇としても読めるし、どちらもメディアでレッテルを貼られたことによって終生特定のイメージがつきまとうことになった共通点も見えてきます(富島氏が「ジュニア小説」を書いていたのは約5年、氷室さんが「少女小説」の看板から距離を置くようになるまではデビューから7年ほど)。

 嵯峨 氷室冴子は停滞していたジュニア小説誌から1977年にデビューしましたが、正直そこは意識していませんでした。富島はもともと純文学に始まり、ジュニア小説、その後は官能小説を書いた人で、私も作品を読みましたが、いまの感覚ではフラットには楽しめない。「大人の男性が書いた物語」だなと感じます。『「ジュニア」と「官能」の巨匠 富島健夫伝』は力作評伝で面白く読みましたが、富島本人については自分の中では「氷室さんの前史」くらいの位置づけです。

 ――氷室さんは大学3年生で「小説ジュニア」主催の新人賞で佳作を受賞して作家デビューしていますが、どうして「小説ジュニア」だったと思いますか。大学で堀辰雄など日本近代文学の研究をしていたなら文芸誌に応募するとか、選択肢はいくつかあったのではと思うのですが。とくに、最初期はコメディ路線ではなかったことを考えると、なおさら。

 嵯峨 本人は応募動機を「お小遣い稼ぎ」「力試し」くらいにしか書いていません。ですから私の推測ではありますが、氷室冴子が関心のあったテーマが「少女」だったからではないかなと。文芸誌で少女を書くのは少し難しく、ジュニア小説誌のほうが選択肢としてはアリだったのではないでしょうか。氷室冴子と並んでコバルト四天王と呼ばれたひとりに田中雅美がいますが、彼女は1979年に「小説ジュニア」の新人賞でデビューしていますが、実は同じ年に新潮社の小説新潮新人賞も受賞しています。ですから一般文芸側にアプローチした同年代の作家もいたわけです。でも氷室さんが書きたかったモチーフを考えると、文学・文芸ではなかったのかなと。

 富島たち先行世代のジュニア小説家たちが意識していたのは「文学」ですが、氷室さん以降は「少女マンガ」に対抗しうる活字のエンタテイメント、「女の子が読んでも納得できる女の子」を書こうという動機が、それまでにない小説を切り開いていった。とくに少女マンガの影響下に青春コメディ路線を確立した1980年刊の『クララ白書』が非常に重要で、そこからコバルト文庫の流れが変わっていきました。

ソース元URL:https://news.yahoo.co.jp/articles/b9fdce4f330f987db5c0cbdc1e560dc866885670

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