俳句は少し言葉を変えるだけで「完成度」が驚くほど上がる...「添削」でわかる俳句のコツ
俳句は「世界最小の、しなやかなで強靭な文芸」だ。たった17音で情景を表現するため、言葉を少し変えるだけで大きく印象が変わる。『俳句劇的添削術』の著者の俳人・井上弘美氏は、添削によって俳句の奥深さをあらためて実感できるという。具体的な添削例を本書から一部抜粋して紹介する。
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私は30歳で俳句を始めました。初めて所属誌に投句をした日の緊張や、それが活字になって掲載された日の喜びは鮮明で、折に触れて思い出します。とりわけ、秀句欄に一句掲載された時の感激は忘れ難く、今も作句の原動力になっています。
このとき私が投句した原句と、掲載された添削句をご紹介します。
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原 句 右足を踏み出してをり蝉の殻
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添削句 片脚を踏み出してをる蝉の殻
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比較してみると、添削句は「蝉の殻」が圧倒的な存在感を放っていることがわかります。音読したときの力強さも別格です。
添削して下さったのは、当時、俳誌「泉」の代表だった石田勝彦先生でした。私は初学ながら俳句の面白さを感得し、添削という方法が俳句文芸の魅力を雄弁に語ることを知りました。
以来、添削という方法を疑ったことはありません。添削は、ある一つの型の中に作品を押し込む危険性があることは重々承知していますが、作者とともに、よりよい作品を模索する手段として、これほど有効な方法はないと思っています。
『俳句劇的添削術』は、こうした私の初学の時からの経験に基づいて出来ました。ここに収めたのは私の主宰する俳誌「汀」に連載中の「推敲のエチュード」です。
作者自身が一句を成立させるまでの推敲過程をたどることで、客観的に作品を眺め、それに対して私がコメントを書くという形式で、毎月1回、約8年間続いています。この連載では、作者の置かれた作句状況や題材、表現したかったことなどが述べられた推敲過程を踏まえ、アドバイスや添削を行っています。
日常の句会でも、作者の話を聞くと、よりよい表現方法が見つかることが多いのです。一方的な添削ではなく、作者との共同作業として完成度の高い一句を目指すことを大切にしています。
したがって、添削の不要な見事な成句が示されたときは、別案によってさらに作句の可能性を探るようにしています。
ここに掲載された俳句は、俳句を仲立ちとした作者と私との公開往復書簡ですが、俳句という、世界最小の、しなやかで強靭な文芸の醍醐味をお伝えすることが出来れば、これほど嬉しいことはありません。
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*本書は著者・井上弘美氏のもとに寄せられた俳句に対して、井上氏が添削するという形をとります。以降のページでは、送られてきた俳句とその作者が推敲過程に考えたこと、井上氏の添削が交互に出てきます。どこからが作者の推敲部分でどこからが井上氏の添削部分かをわかりやすく区別するために、各部分の初めに「推敲」か「添削」かを明示するのに加えて、推敲部分の最後に「(俳句の)作者の名前」と「*」を入れています。
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