彫刻のような椅子を見る。『フィン・ユールとデンマークの椅子』展が開催。
デザイン大国として知られる北欧の国・デンマーク。とりわけ1940年代~60年代にかけて歴史に残る優れた家具が生み出された。中でもフィン・ユール(1912年~1989年)は、ひときわ美しい家具をデザインしたことで知られている。優雅な曲線を特徴とするその椅子は、「彫刻のような椅子」とも評され、モダンでありながら身体に心地よくなじむデザインが魅力だ。
当時の家具デザイナーたちの多くが家具の専門学科や家具工房の出身であるのに対し、フィン・ユールは美術史家になることを夢見ながらアカデミーで建築を学び、建物の設計やインテリアデザインにたずさわるなかで家具デザインを手がけた。身体を抽象化したようなやわらかなフォルムは座って心地よいばかりでなく、彫刻作品にも似た静謐な存在感を放ち、建築や美術、あるいは日用品と濃密に響き合いながら、空間との調和を生み出す役割をも果たしているかのよう。
本展では、デンマークの家具デザインの歴史と変遷をたどるとともに、フィン・ユールの幅広い仕事を紹介する。特に椅子研究者の織田憲嗣が研究資料として長年にわたり収集してきたコレクションが、東京でまとめて展示されるのは初めての機会だ。試作として作られた貴重な一脚から名作椅子まで、バラエティに富む椅子の数々が一同に会する。2022年7月16日から始まる〈東京都現代美術館〉の『ジャン・プルーヴェ』展と合わせて、この夏ぜひ訪れたい展示だ。