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「腰巻き事件」の裸婦像も。混乱の時代に生まれた名品とは? 静嘉堂文庫美術館「明治美術狂想曲」レビュー(評:小川敦生)
2023-05-01
「腰巻き事件」の裸婦像も。混乱の時代に生まれた名品とは? 静嘉堂文庫美術館「明治美術狂想曲」レビュー(評:小川敦生)

「明治美術狂想曲」と題された企画展が、東京・丸の内の静嘉堂文庫美術館(静嘉堂@丸の内)で開かれている。静嘉堂文庫は、岩﨑彌之助(1851~1908、三菱第二代社長)と岩﨑小彌太(1879~1945、三菱第四代社長)の父子二代が収集したおよそ20万冊の古典籍と6500件の東洋古美術品を東京・世田谷の施設で収蔵。昨年10月からは、東京・丸の内の明治生命館1階にオープンした展示施設の静嘉堂@丸の内で、企画展を開催している。


橋本雅邦(1835~1908)の《龍虎図屏風》(1895、重要文化財)は、そうした世相を経た中で明治中期に生まれた作品だ。 どちらも強さを象徴する龍と虎が対決する様子を描いた「龍虎図」は、室町時代の雪村、桃山時代の長谷川等伯、江戸時代の長沢芦雪など多くの絵師が手掛けてきた伝統的な画題である。その歴史の上にある雅邦の作品についてまず特徴的なのは、余白がほぼ存在せず、さまざまな要素が画面をぎっしりと埋めていることだろう。龍や虎がただ力強い、あるいは凄みを見せているだけの絵ではない。画面全体をただならぬ空気が覆っているのだ。それはまさに、価値観が混沌とした時代を映したものではなかったのか。

右隻では、龍の親子の周囲に、渦巻くように雲と波が描かれている。伝統的な龍虎図では龍は雲を従えるという約束事がある。しかしこの絵では龍は雲ばかりか波まで従え、その波はまるで怪物のように虎に向かっている。龍の子どもも、なかなか獰猛な表情を見せているではないか。左隻の虎2頭は、強風や雷が襲いかかる中で、大きくしなった竹とともに戦いに備えている。遠近感を強く意識して様々なモチーフを重ね描いたり陰影を用いたりしているのは、雅邦が新しい時代の日本画の在り方を模索したことの表れだろう。奥行きの表現が素晴らしく、立体感が巧みな仕上がりだ。

この作品は岩﨑彌之助の出資で制作され、明治28年(1895)に京都で開催された第4回内国勧業博覧会に《龍虎》というタイトルで出品されたという。東京からわざわざパトロンの支援を受けて出品したこと、美術館や「文部省美術展覧会(文展)」などの公募展が存在しない時代に博覧会という貴重な場で発表されたことを考えると、雅邦は力を尽くしてこの作品を描いたであろうことが想像できる。

ところが、当時の報道では龍の顔や虎の姿勢が不評で、博覧会における受賞も逃したという。あるいは、そもそも会場が京都だったから、東京の絵画を弾き出したといったような事情もあったのだろうか。

そしてこの作品は、昭和30年(1955)に近代絵画として初めて重要文化財に指定された4点のうちの1つとなり、その時点では近代美術として最高の評価を受けている。

現代の目で見ても、龍の表情も、湾曲した虎の姿勢も、なかなか魅力的だと思うのだが、どうだろうか。時代のうねりを描いたとも言えるこの作品そのものの評価が波乱万丈のなかにあったことが興味深い。

ソース元URL:https://news.yahoo.co.jp/articles/f48093ae6c06378a2bf532ec0e8feae0e74be359

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