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大山 顕 戦前・戦争写真のカラー化は何を見えなくしたのか――色づけが生み出すスペクタクル
2022-10-04
大山 顕 戦前・戦争写真のカラー化は何を見えなくしたのか――色づけが生み出すスペクタクル

 写真家・ライターの大山顕さんが、「記憶の解凍」プロジェクトについて検討。なぜ、その試みに違和感を覚えたのかを綴ります。
(『中央公論』2022年10月号より抜粋)
 新型コロナウイルスと聞いて、どのようなビジュアルを思い浮かべるだろうか。おそらく多くの人が、上のイラストのようなイメージを連想するのではないか。

 このイラストは米疾病対策センター(CDC)の医療イラストレーターであるアリサ・エッカート氏とダン・ヒギンス氏によって制作されたもの。ニュースサイトやテレビなどでさんざん目にした、おなじみの新型コロナウイルスの姿である。

 ぼくは、カラーで見ると毒々しい色が特徴的なこのイラストに強い違和感を覚える。世界中の人びとが当たり前のように、このウイルスこそが、多くの犠牲者を出し未曽有の混乱を引き起こした闘うべき「敵」と考え、この姿形を思い浮かべる。

 しかし、ほんとうにウイルスは「敵」なのだろうか。ここでぼくが連想したのは、太平洋戦争の戦前から戦後にかけてのモノクロ写真をカラー化するプロジェクトのことだった。
 2020年、庭田杏珠(にわたあんじゅ)・渡邉英徳(ひでのり)の共著による『AIとカラー化した写真でよみがえる戦前・戦争』(光文社新書)という写真集が出版された。話題になった本なので、ご存じの方も多いだろう。タイトルの通り、戦前・戦争のモノクロームの写真をAIの力も借りてカラー化したものが数百枚掲載されている。

 著者の一人、渡邉氏は本書で「カラーの写真に眼が慣れた私たちは、無機質で静止した「凍りついた」印象を、白黒の写真から受けます。このことが、戦争と私たちの距離を遠ざけ、自分ごととして考えるきっかけを奪っていないでしょうか?」と語り、この試みを「記憶の解凍」プロジェクトと名づけている。実際、本書のレビューを見ると、「色が付くことで身近に感じられるようになった」「リアリティを感じる」「現在の自分たちと地続きなのだと実感した」などといった言葉が並んでいて、著者のもくろみは成功したと言えるだろう。

 しかしぼくは本書の色づけされた写真とこれらの感想に対して、先のウイルスのイラストと同様の違和感を覚える。

 写真の歴史を見れば、モノクローム写真に着彩を施した例はいくらでもある。カラーフィルム/プリント普及以前の観光絵葉書などにはよくあることだった。しかし、ここで素材として選ばれているのは戦争にまつわる写真だ。楽しみのための着彩ではなく、前述したように「戦争と私たちの距離」を縮めるという一種の啓発を目的としている(楽しみと啓発は両立しないのか、という問題はここでは措こう)。

 その際、まず問題になるのは、色の正確性だろう。本書の刊行以前に渡邉氏のSNSで公開された写真には、実際と異なる着彩がなされたものがしばしばあったという。AIによる推定なのだからそういうことが起こるのは当然で、渡邉氏もこれは予想していたようだ。本書の中でも「AIが判断できない人工物の色は、(戦争体験者との)対話の内容や資料をもとに修正します。SNSで寄せられた情報をもとに、色補正することもあります」「自動カラー化、対話を踏まえた色補正。そして再度の対話と、さらなる色補正……「カラー化」と「対話」は同時に進行していきます。そして、終わりはありません」「カラー化された写真の色彩は「実際の」色彩とは異なります。できる限りの「再現」を目指していますが、まだまだ不完全です。(略)おそらく、永遠に終わらない旅です」と、慎重に説明している。

ソース元URL:https://news.yahoo.co.jp/articles/101a88e0942a27237f25604b418472fc950662a8

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