目利きの書店員が選ぶ、若手写真家の写真集3選【The Reference編】

ドアを開けると水カビの匂い、蒸気、温もりが押し寄せ、私たちの疲れを癒す。小さな幸せを人々に提供する銭湯は、新型コロナ以降閑散とし、その多くが廃業を余儀なくされた。『Bathhouses in Seoul』の表紙を飾る、湯気立つ浴槽は、まるでその惜しさを慰めるかのようだ。パク・ヒョンソンは消えていくもの、またはひっそり残されたものが「過去」になってしまわないように、まっすぐな視線でそれらを写し出している。デザインスタジオで出版社でもある6699pressのイ・ジェヨンとともに企画・出版されたこの写真集は、歳月を耐えてきた古い銭湯を見つけ、それらの「現在」を記録した1冊。撮影された銭湯の中にはすでに閉まったところもあるが、人々の思い出のように本の中で生き続けるのだろう。パクの「ソウル」シリーズ第二弾の『Parks in Seoul』もまた、公園という身近なソウルの姿をとらえている。パクが視線をすえて描いていくソウルは一体どんなものになるのか、今後の作品が楽しみな作家のひとりだ。
イ・ミンジの写真は、静けさが漂うスチールイメージのなかに微細な動きが見え隠れし、小さな息吹を感じさせる。タイトルの「ゴースト・モーション」とは、ドラマーがリズムを取るために体の一部を動かす小刻みな動作のことであり、本書にはヨガをする人やドラマーなど、リズムと体を一致させる人々が登場する。イは細やかに揺れる身体としぐさに焦点を当て、写真からこぼれ落ちたもの--残像や音、振動、触覚など--を掬いあげるようにイメージを作る。映像から切り取ったシークエンスのあいだに垣間見える動きが、残像のように、更なる感覚として広がっていく。ページをめくっていくと自然と映像が浮かび上がり、身体に刻み込まれた感覚が開かれ、五感が刺激されるようだ。この不思議な感覚を、読者はそれぞれどのように感じ取るのだろうかと、好奇心が掻き立てられる。