金川晋吾写真集『長い間』が刊行。記念展 「2022年7月-10月/Self-Portraits」がNADiff a/p/a/r/tで開催中
で開催中だ。会期は7月2日まで。
金川は1981年生まれ。東京藝術大学大学院に在学中の2008年より父親の撮影を続け、16年に写真集『father』(青幻舎)を刊行。もっとも身近な他人である父親の姿を通して、社会制度や家族制度では一言で括ることのできない人間の存在について問いかけたことで話題を集めた。
今回刊行された『長い間』(ナナルイ)は、「father」のシリーズと並行して2010年より撮影していた、数年ものあいだ行方が分からなくなっていた伯母(実父の姉)との、約10年の年月について写真と日記によってまとめられた1冊だ。同時期には初の文芸書『いなくなっていない父』(晶文社)も発表。この2つの著書は、約15年にもわたって「家族という他者」を撮り続けた金川の集大成と言えるだろう。
本展では、最新作の「2022年7月-10月/Self-Portraits」を展覧するものだ。ウェブ上に発表していた2022年7月から10月の4か月間の写真と日記を、1ヶ月ごとにzineのかたちにまとめ、同時期から撮りはじめたセルフポートレートの写真が、NADiff
a/p/a/r/tの店内とNADiff Window Galleryで展示されている。
「今、春でしょ。そして、次は夏よね。次来てくれるのは夏やね」と言うので、夏にもまた来る約束をする。
一口ずつ、スプーンを静江さんの口に運んでいると、その行為は何か意味があるように感じられるというか、物質的なもの以外の何かを交換をしているような気にもなる。静江さんに対して愛着、愛情のようなものを感じる。でも、それも最初だけ。1時間ぐらい一緒にいると、静江さんのコンディションも悪くなっていくのもあって、けっこうきつくなってくる。(『長い間』より抜粋)
文章を書こうとしても、何時間もかけてもまったく先に進むことができないということがある。そういうとき、というか現に今がそうなのだが、そうやっておんなじところをぐるぐると回り続けている自分に強い怒りと苛立ちを感じてしまう。過ぎ去った時間を思い、大切な時間をひたすらに無駄にしている自分に対してものすごい怒りがこみあげてくる。「同じところをこねくりまわさず、とりあえず先に進め!」と自分に怒り狂っている。自分でもやばいと思う。
ジョギングはすごい。走っていると、自分でも引くぐらいの苛立ちがすっと消えてとてもいい気分になれた。(『2022年7月』より抜粋)
なお、本展関連イベントとして店内では金川による選書フェアや、7月1日には、小説家の太田靖久をゲストに迎えたトークイベントも実施される。