藤井聡太竜王と広瀬章人八段、激闘の余韻残し七番勝負閉幕…私も頑張らなきゃ[山口恵梨子の将棋がちょっと面白くなる話]
広瀬八段は今期の七番勝負が始まる直前に、私が出演するNHKの将棋フォーカスにゲストで来てくださっていたんですよね。タイトル戦挑戦が決まった直後の棋士って、その瞬間から普及の仕事を全て断って、誰とも話さず家でピリッとした空気の中でひたすら将棋だけを十何時間もする……みたいな勝手なイメージがあったんですが、収録現場でいつも通りニコニコ穏やかにお話しされている姿を拝見し、自分の中の価値観がひっくり返りました。
普段お仕事をご一緒させていただく時と全然変わらなかったんですよね、広瀬八段。番組の中では、司会のサバンナ高橋茂雄さんに竜王戦七番勝負の目標を聞かれて、「藤井竜王に七番勝負の後半戦を体験させてあげますよ」と不敵に笑うシーンもありました。今まで七番勝負では2敗以上したことがなかった藤井竜王ですが、その言葉通り、今期の竜王戦で初めて第6局を経験。惜しくも敗れはしましたが、広瀬八段、まさに有言実行の戦いでした。
また、広瀬八段は番組の中で「序盤で工夫をするなど準備をしっかりしようと思う」とお話しになり、高橋さんから「まさか久しぶりに振り穴王子の振り飛車穴熊が登場するんですか!?」とツッコまれるシーンもありました。戦型は6局とも相居飛車となりましたが、相居飛車の中でもあまり対局数が多くない変化手順に誘導したり、自分だけが研究している土俵に持ち込んだりする広瀬八段の序盤戦術の巧みさと研究の深さが素晴らしかったです。
そして何よりも感動したのが、どんな局面でも最善手を放つ藤井竜王の力のすさまじさ。先日、「藤井竜王は序盤中盤終盤どこがとかじゃなくて、単純に将棋が強い。全部強い」とおっしゃる棋士の先生の話を聞いて、絶対王者なんだなと思うと同時に、誉め言葉って重みを増せば増すほどシンプルになっていくんだなと思いました。研究から外れて未知の局面になった時でも、こんこんと考えて最善手を放ち続ける姿はいつ見ても感動します。第6局も微差のリードからチャンスを逃さず勝ち切る強すぎる将棋でした。素晴らしかったです。
さて、第34期竜王戦七番勝負から始まった私の連載も今回で最終回になります。藤井竜王という天才棋士の登場、AIと棋士の共存の時代などなど、いま将棋界は大きな変化の真っただ中にあります。将棋界の一員として自分にできることはなにか、女流棋士に求められていることはなにかを考えて、答えを出しながら前に進んでいけたらと思います。
将棋ファンの方々にますます楽しんでいただける将棋界になりますように皆で一丸となってがんばります! 今後とも応援、よろしくお願いします!
山口 恵梨子( やまぐち・えりこ )
日本将棋連盟所属の女流棋士。堀口弘治七段門下。16歳で女流棋士となり、2010年に初段、16年二段に昇段。白百合女子大学卒。将棋が好きな人のためになる情報満載の「 女流棋士 山口恵梨子ちゃんねる 」をYouTubeに開設。ツイッターは @erikoko1012