東京・新宿のラッシュアワーを撮り続ける写真家・大西正 「憂鬱な気持ちが固まって映像になる」 〈dot.〉
これまで、多くの写真家が撮影してきた東京・新宿の街。
大西正さんの作品の面白さのひとつは、新宿を撮るために通うのではなく、日々の通勤途中に写すという撮影スタイルにある。
「外国人がよく、新宿駅の周辺でラッシュアワーとかを撮っていたじゃないですか。サラリーマンが酔っ払っている姿とか。そんな、『外の人』が撮るサラリーマンじゃなくて、自分がサラリーマンだから、自分自身を写す、みたいな感覚で撮っているところがあります」
東京都小平市にある大西さんの自宅から横浜市郊外の勤務地までは往復約5時間。
「朝、電車に乗っているうちに『今日は会議があるな』『あれをやらなければ』とか、だんだん気持ちが仕事モードになっていく」
新宿で電車を乗り換える際、西武新宿駅からJR新宿駅まで大きく回り道をして1時間ほど撮り歩く。
「新宿でカメラを手にパシパシ撮っていると、憂鬱だったり、不安だったりする気持ちが固まって映像になる、という感じです。なんとなく気持ちが晴れてくるというか」
決まった撮影コースがあるわけではなく、「そのときの気分で」路地を歩く。
「よし、今日はここに行って、こういう写真を撮るぞ、というのではなくて、もうそこに自分がいるから、ただ淡々と撮っている。いい写真を撮りたいとか、何か面白いものを撮りたいという気持ちはまったくなくて、ただ目に入ったものを感じたり考えたりする前に全部を撮りたい。だから、構図に気を配ったり、いわゆる決定的な瞬間とかはなるべく撮りたくないんですよ。」
■モニター上でもスナップ
コロナ禍以前は毎月約2万カットを撮影した。
「それをパソコンのモニターで繰り返し見て、1%弱くらいに絞って写真にする。言ってみれば、『打率』は低いんですけれど、低い打率でもいい、というのがデジカメのいいところですね」
撮影にはそれほど重きを置かず、軸足を置いているのはむしろ撮影後のセレクトだと言う。