新しくなった〈藤田美術館〉へ! 仏教美術や茶道具の名品が勢揃い。
〈藤田美術館〉を創設した藤田傳三郎は明治時代、大阪で活躍した実業家。藤田組を興して琵琶湖疎水工事などを手がけ、現在の南海電気鉄道や東洋紡績、関西電力などの前身となる会社の設立にも関わった。一方で日本美術が廃仏毀釈によって海外流出の危機にあることを憂い、仏教美術の収集につとめる。また茶人でもあった彼は、大名などのパトロンを失ってこれもまた危機にあった茶道具も集めていた。
1945年の大阪大空襲では藤田邸も全焼するが、美術品を収めた蔵は奇跡的に被害を免れる。1954年に開館した〈藤田美術館〉はこの蔵で藤田傳三郎やその子の平太郎、徳治郎らが集めた逸品を公開していた。それから半世紀以上の年月が経ち、貴重な美術品を守る空調などが整った新館を建設、この4月に5年ぶりの再オープンを迎えた。
新しい建物は藤田組と大倉組が設立した日本土木会社がもとになった大成建設の設計によるもの。隣接する毛馬桜之宮公園(藤田邸跡公園)との間にあった高い塀を取り払い、公園の中に美術館があるようなたたずまいになった。鉄筋コンクリートの権威と目された日比忠彦が設計した蔵を解体、その部材を随所に使っている。
現在、〈藤田美術館〉が所蔵する美術品はおよそ2000件。この中には国宝9件、重要文化財53件が含まれる。茶道具のコレクションでは国宝《曜変天目茶碗》のきらめきに目を奪われる。この茶碗は見込みだけでなく碗の外側にも斑点があるのが特徴だ。《交趾大亀香合》は傳三郎が死の直前に当時9万円という高値で落札したもの。黄色に緑や茶の甲羅が描かれた大振りの香合は希少なものだ。
唐時代の僧玄奘三蔵の一生を描いた国宝《玄奘三蔵絵》は、鮮やかな色彩で描かれた想像力豊かな異国の風景が楽しい。
重要文化財《地蔵菩薩立像》は快慶の作。地獄に堕ちた人々を救うため雲に乗って飛ぶ地蔵菩薩は衣の彩色もきれいに残る。
新装なった藤田美術館では毎月一つずつテーマを設け、それぞれ3ヶ月間展示する。3ヶ月に一度訪れるとすべての展示テーマを楽しむことができる仕組みだ。展示室では展示ケースを内包した展示壁が動かせるようになっていて、展示替え期間中も閉館せず、順次作品を入れ替えていくことができる。日本美術の至宝がぐっと身近になる美術館だ。