圧巻のディオール展!高木由利子が撮り、引き立てるクチュールの真髄
会場に入るとディオールを世界へ導いた「ニュールック」と呼ばれるスタイル「バージャケット」が出迎える。次の部屋へ進むと日本開催を記念して特別に追加されたディオールと日本の関係を紐解くアーカイブ資料と歴代のクチュリエが日本の美を表現したドレスが展示され日本文化との関係の深さを物語る。
さらに創始者ムッシュ ディオールから現在に至る、イヴ・サンローラン、マルク・ボアン、ジャンフランコ・フェレ、ジョン・ガリアーノ、ラフ・シモンズ、マリア・グラツィア・キウリ7名のメゾンを指揮するクリエイティブ ディレクターが紡ぎ出したへリテージのドレスは、写真家・高木由利子の日本の感性を帯びた大判の写真と共に展示される。衣服と写真を共存させる展示方法は、装飾美術館の壮麗な建物に整然と並んだドレスの展示から、日本独特の「ニュアンス」を感じさせる展覧会に変化した。
撮影を託された高木由利子は、日本のスタジオと同じようにパリのスタジオも「すみぐろ、黒」の壁、床は黒い漆喰で設え、柔らかい自然光で撮影した。今までフォトグラファーとして色々服を撮ってきたが、クチュールは初めてだったという。「クチュールは違う次元、服にエモーションがある。依頼者、デザイナー、職人それぞれのパッションが服に入っている感じ。光と影、マットとグロス、暗と明、その中をたゆたうドレスたち。選び抜かれた素材から生まれた服だからこそのリアクションが浮き上がってくるのです」と高木は語る。
「たゆたうドレス」はシャッター速度を8秒に設定し、最初の4秒は静止し、後の4秒はゆっくり動く、すると動画のワンシーンのような動きのブレが軌跡として映し出される。美しいブレを作り出すために、高木はダンサーを起用した。「彼らは服を感じることができ」それを表現できると言う理由からだ。
展覧会の図録は、会場に展示されていた高木の写真をメインにした写真集のような仕上がりになっているのでぜひ手に取って見てほしい。
会場デザインは建築家の重松象平が手掛けたもの。パリ装飾美術館での展示法をなぞりながら、鏡を多用し観覧者を夢の世界へ誘う。中でも圧巻だったのが35体のボールガウンを纏ったストックマン(人台)が、吹き抜けを斜めに2分した立体的な空間に並べられた「ディオールの夜会」と題した展示。東京と現愛美術館の構造を活かした日本展ならではの見どころだろう。
この展覧会がこれまでのモード展と異にしているのは、メゾン ディオールのヘリテージ=歴代の衣服を芸術的な視点と手法で物語っているからに違いない。ファッション好きのみならず写真好きも大いに楽しめる圧巻の展覧会だ。