青森〈弘前れんが倉庫美術館〉で体感。池田亮司の映像とサウンドが、空間と時間のスケールを突きつける。
その名のとおり、煉瓦(れんが)で作られた〈弘前れんが倉庫美術館〉には高さ15メートルの吹き抜けの大空間がある。ここに映像が投影される。複雑な計測器が示すような数値やその変化だったり、原子核の内部、地理学的な図形、燃え盛る太陽の表面や太陽系の惑星の姿、ヒトの脳の画像もある。それらが次から次へと切り替わり、通奏するノイズの上に時おり重なる電子音、それが続く。
これは池田亮司の《data-verse 3》という作品だ。天体や地表、人体の一部という自然から切り出されたヴィジュアルと変化する数値。NASA(アメリカ航空宇宙局)やCERN(欧州原子核研究機構)が公開しているもの、ヒトゲノム計画からのもの、そのほか多くの科学機関からオープンソースのデータを集め、一つの映像として構築されたものだ。
投影された映像の巨大さにも、全身で没入させられる音響にも、次々に繰り出される画像にも、その全ての要素が見る者を引き込んでしまう圧巻の作品。この《data-verse 3》はアート・バーゼルでも発表され、「data-verse3部作」の最終章にあたる。
この3部作の最初の作品である《data-verse 1》は、2019年のヴェネチア・ビエンナーレで初公開された。ヴェネチアの〈アルセナーレ〉は中世から続いた造船所の跡地。広大な煉瓦作りの建物で、このシリーズが彼の地で最初に発表されたときも圧倒的な衝撃で迎えられたものだと思うが、それを再び、日本では稀なこの煉瓦造りの美術館で発表できたことの関係者の喜びが想像できるというものだ。
池田亮司はパリと京都を拠点とする電子音楽の作曲家、アーティストである。最新のテクノロジーを駆使し、音、光、映像を用いて、観客を空間に没入させる作品で国際的に高い評価を得ている。
あるインタビューによると、キャリアのスタートはライブハウスで400本以上のライブを企画・プロデュースしたことだという。そこではアフリカ、中南米、アジアなどのワールドミュージックが中心だった。その後、京都で結成されたアーティストコレクティブであるダムタイプに出会い、多くを学び、作家として活動していくことになった。