TOKYOまち・ひと物語 強く生き抜く力育みたい アイディア高等学院 浮世満理子理事長
心理カウンセラーとして国内で約30年、老若男女のさまざまな悩みや不安に耳を傾けてきた。教育現場からカウンセリングやメンタルトレーニングを依頼される機会も多く、数年前からは若年層を対象としたSNS相談にも携わってきた。
そこには本音が次々と届く。いじめを受け、教室が「怖い」と訴える子供、自殺願望を口にする子供…。学校で一人にならないよう明るく元気なキャラクターを演じていると明かす子供もいる。親にも友達にも本当の自分をさらけ出せず、ひとたび不登校に陥れば、学校に行けなくなった自分を責め続けてしまう。
孤独の淵に陥り、身動きが取れなくなっていく子供たち。「いじめがなく、心の安全を守りながら成長を支えていける学校をつくりたい」と思った。
アイディア高等学院では専属のメンタルトレーナーが、卒業まで生徒に伴走。日々の生活で子供たちが直面する喜怒哀楽を共有し、悩み事が生じれば、ともに解決策を模索していく。
学習面も伴走型を貫く。卒業に必要な単位取得に向けてその子のペースで進めていける学習計画を立て、生徒らはレポート提出などの課題に取り組んでいく。
中でも力を入れているのは、生徒らに、夢中になれる「好き」を見つけてもらい、それを育てることだ。教師らは生徒の興味の範囲を広げたり、深掘りしたりできるような環境づくりに努めていくという。
「例えば動物好きで将来は獣医師を目指す子なら、実際に生き物と関わる機会をつくるだけでなく、自然への深い理解や愛情へとつながっていく学びを与えていきたい。歌が好きな子に『自信を持ちたい』との願いがあるなら、『英語の歌を歌えるように練習してみたら』と提案すれば、楽しみながら英文法を知ることにもつながるはずだ」
授業の一環として、第一線で活躍する人たちと対話できる機会も積極的に設けている。プロサッカー選手やゲームクリエーターらを講師として招くこともあり、最近ではロシアとの戦争が続くウクライナから国内に避難してきた大学生らとの交流も行っている。中には世界史や国際情勢に興味を持ち、視野を広げている生徒もいるという。
周囲の大人から助言や刺激を受け、好奇心を追求し始める子供たちの目は生き生きとしている。こうした中からさまざまな目標が立てられ、試行錯誤しながら自己実現を果たしていくことで「自信」が生まれる。
「こうすれば幸せになれるという『幸せの担保』がない今の時代を生き抜くには、自分を信じて前に進むことができる自己肯定感の高さが必要になる。高校の3年間で心に必要な栄養素を蓄え、環境の変化にも、しなやかに対応していける強さを身に付けてほしい」
ひだまりのような笑顔を向けた。