【展示会は明日まで】シャネル・ネクサス・ホールが受け継ぐガブリエルの精神
シャネルの日本最大級の店舗であり、銀座のランドマークの一つともなっている「シャネル 銀座」。この建物の4階に、世界中にあるシャネルの店舗の中で唯一、カルチャーに特化したスペースがある。<シャネル・ネクサス・ホール>(以下、ネクサス・ホール)は、2005年に誕生して以来、展覧会や音楽会を定期的に開催し、ユニークなプログラムを発信している。そしてこの試みをリードするのは、ネクサス・ホールの生みの親であるリシャール・コラスだ。
「2004年にオープンした<シャネル銀座>のコンセプトを考えていた時に、何か文化的なことを行うスペースを作りたいと思いました。パリの本社は特に関心を示さず、好きにやればと任せてくれたのがラッキーでしたね。建物をデザインしたピーター・マリノは、長く続かないからブティックと繋げたほうがいいと冗談交じりに言いました(笑)。でも逆にそうしたことが私の心に火を付け、『プログラムを年間300日やるぞ』と決意したんです」
そもそもブランドの創始者であるガブリエル・シャネルは、多くの芸術家との交流で知られた人物だ。ジャン・コクトー、パブロ・ピカソ、サルバトール・ダリ、セルゲイ・ディアギレフ……。名前を挙げれば切りがないほど、ガブリエルは芸術家たちを愛し、そして彼らの活動を支援した。精神分析医で、彼女の伝記も書いたクロード・ドレは、「シャネルはビグマリオン。人の才能を引き出すのが上手い」と述べたと言う。
ネクサス・ホールは写真展とクラシック音楽に特化したプログラムを展開しているが、これはコラスのアイデアだ。写真はファッションには欠かせないメディアだが、ガブリエルもポートレイトをマン・レイやロベール・ドアノーに撮影させるなど、その造詣の深さを窺わせる。映画監督としてキャリアをスタートする以前のロベール・ブレッソンに、シャネル専属のスチール・カメラマンとしてメゾンの商品を撮らせていたのも、先見の明のある彼女ならではのエピソードだ。そして音楽もまた、ガブリエルにとって身近な存在だった。20世紀ロシアを代表する作曲家イゴール・ストラヴィンスキーとの親交は、映画にもなっている。