ジャコメッティ、7つの彫刻がパリから来日。エスパス ルイ・ヴィトン大阪で名作と対峙する体験を
ジャコメッティはスイスに生まれ、イタリアで育った作家。画家の父を持ち、幼い頃からデッサンを始めており、13歳のときには弟・ディエゴの胸像も手がけた。パブロ・ピカソやマックス・エルンスト、ジョアン・ミロらと交流し、シュルレアリスムの影響を受けながら、動物の骨を連想させる《午前4時の宮殿》(1932)などの彫刻作品を制作した。
しかし30年代にはシュルレアリスムと決別し、具像彫刻に回帰。見えるものを見える通りにかたちづくり、描かれたものの本質に迫ることを追求した。第二次大戦後、身体を細長く引き伸ばした新たなブロンズ彫刻を手がけ、50年代にはその名声が高まっていった。
日本では2017年に東京・国立新美術館で回顧展が開催され、約2ヶ月半の開催期間中におよそ14万人を動員したことが記憶に新しい。
今回の展覧会は、パリにあるフォンダシオン
ルイ・ヴィトンの所蔵作品を世界各地のエスパス ルイ・ヴィトンで展示する国際的なプロジェクトの一環として行われるものだ。
会場となるエスパス ルイ・ヴィトン大阪は、2021年にルイ・ヴィトン メゾン
大阪御堂筋に誕生したスペース。大阪の歴史を彷彿させる菱垣廻船から着想を得た、帆を立てた船のような外観を持つ建物の5階に位置する。
同スペースにとって3回目の展覧会となる本展では、フォンダシオンのコレクションからジャコメッティを象徴する7点の彫刻作品、《棒に支えられた頭部》(1947)、《3人の歩く男たち》(1948)、《ヴェネツィアの女III》(1956)、《大きな女性立像 II》(1960)、《男の頭部》(ロタール
Ⅰ、ロタール II、ロタール III、1964-65)が並ぶ。これは、フォンダシオンが所蔵するジャコメッティ作品のほぼすべてに当たる。
柔らかな自然光が入るように設計された会場に点在する彫刻作品。壁面に施された2つのジャコメッティの巨大なポートレートが、会場にコントラストを与えている。
来場者を最初に迎える作品であり、本展でもっとも注目すべき彫刻が、高さ277センチに及ぶ《大きな女性立像 II
》だ。ジャコメッティは1956年にヴェネチア・ビエンナーレに出品するため「ヴェネツィアの女」シリーズを手がけているが、これは同シリーズに続き制作されたもの。チェース・マンハッタン銀行の依頼で1960年に制作された大作3点のうちのひとつだ。
ジャコメッティが女性の裸体をモチーフにした最後の作品であり、ジャコメッティ最大の彫刻作品でもある《大きな女性立像 II
》。わずかに前傾した台座と大きな足がこの彫刻作品の高さを強調しており、見るものを圧倒する。その姿は、どこまでも厳かだ。
極端に細長くつくられたジャコメッティの彫刻作品を見ていると、その理由が知りたくなるだろう。本展では、会場の巨大スクリーンで上映されるドキュメンタリー(1966、49分45秒)も見落とさないようにしてほしい。エルンスト・シャイデガーとペーター・ミュンガーによるこの映像には、ジャコメッティがスケッチを行う様子や、細長い彫刻の意味について答える様子、そしてその葬儀の様子までもが収められている。
ただただ現実を見つめ続け、見たものをそのままに表現しようとしたジャコメッティ。その生涯にわたる挑戦の痕跡を、7つの作品と映像から見つめてほしい。