企画・松井亮、選書・幅允孝。10種類の個性的な本棚が並ぶ、期間限定のライブラリー。
かつてはウォーターフロントと呼ばれもてはやされるも、近年は話題に乏しい東京・芝浦。周辺の湾岸地区同様にタワーマンションが増えているが、現役の物流倉庫も残る不思議なエリアだ。その一角にある1986年竣工の五色橋ビルで『LIBRARIES|鎖でつながれた本と本棚と太陽』展が開催中。企画や展示デザインを建築家の松井亮、本棚に並ぶ本のセレクトを幅允孝が手がける。
松井亮(以下松井) このビルのリノベーションを行う〈リソーコ〉さんから、リノベーションする上でのショールームの企画を相談されたのが始まりでした。しかし、入居する企業によって空間の使い方は違うので、展覧会形式で空間の使い方から提案したいと考えたんです。実際にビルの8階を見てみると、東から西までの連続窓があり、太陽の光が1日中きれいに入る。昔、図書館では太陽光だけで本を読んでいたという話を思い出し、期間限定のライブラリーのような展示を発想しました。
── 展覧会タイトルにある「鎖でつながれた」の意味とは?
松井 ヘンリー・ペトロスキーの『本棚の歴史』という本によると図書館の原型は修道院で、当時の本は手写で貴重だったため鎖でつないで管理していたと書いてあります。安全上、図書館では火が使えず本棚は窓のそばに置かれ、書見台でしか本が読めませんでした。これは17世紀以降も続き、人間が本を読んだ歴史と自然との関係が神秘的で面白いなと。では本に鎖のない現在、人が特定の場所で本を読むのはどんな状態なのか? 本棚に居場所があって、寛ぎながら本が読めるのは、新しい図書館のきっかけになると考えました。
── そこから10種類の個性的な本棚を発想していったんですね。
松井 スマホで大量の本が読める時代なので、本棚の収容量よりどんな本があるかが大切だという仮説を立てました。それぞれにテーマのある本棚に引き寄せられ、初めて1冊の本に遭遇できる場所です。実は幅さんには、その時点から相談に乗ってもらいました。
幅允孝(以下幅) ものすごく本が入らない(笑)、特色がはっきりした本棚にとても興味を持ちました。というのも、公的な図書館でも昔ほど収容量は問われません。デジタル化されてクラウド上にある本の量に、リアルな本はかなわない。だから、1冊1冊が個人に刺さって抜けなくなる状態が重要になってきています。
松井 空間の中に彫刻のように本棚を点在させようとすると、1個1個に個性が欲しい。そこで窓の外の風景も時々リンクさせながら本棚をデザインしていきました。《シェーズロング》は海と空が見える場所にあり、色をブルーにしています。また芝浦の超高層マンションに向き合う本棚は、その色や姿をトレースしました。
幅 僕は本棚の形を見て、名前や説明を聞き、選書のイメージを広げていきました。印象的だった本棚《フローティング》はステファヌ・マラルメがテーマで……。
松井 言葉が浮いているように配置されたマラルメの詩から、本が浮かぶ本棚ができたら思考を切り取った風景になるのではと。
幅 そこで選んだのは、マラルメのサロンに集った人々の本や、彼が詩の題材にした偶然性に関する本。また、《スラント》は「傾き」そのものを扱った本を中心にしています。傾いた屋敷が舞台の島田荘司のミステリーから、ピンチョンの『重力の虹』、アンバランスやその中のバランスに関する本まで。本棚には本を収蔵する機能しかないと思い込んでいたけど、松井さんは建築家的発想で本棚を柔らかくしてくれた感覚があります。