ジュエリーブランド〈シハラ〉がPerfumer H創業者と創った、記憶を呼び起こすフレグランス。
「ジュエリーとは、ひとの一生、または節目に深く関わり、誓約やお守り、装身の喜びなどのさまざまな想いとともに存在している。そんなジュエリーを選びに行く道程や天気、出会うひとなど、 その時間のすべてが特別であってほしい」と語る〈シハラ〉デザイナーの石原勇太。香りへとブランドの世界観を広げるきっかけとなったのは、昨年オープンさせた東京・北青山の新旗艦店〈シハラ トウキョウ〉の存在だ。「ジュエリーを選び、購入した経験やその時の気持ちを思い起こすきっかけとなり得る店舗の空気を生み出すには。他にはないここだけの香りが必要だと考えました」。
ともに香りを創ったリン・ハリスは、パリと南フランスのグラースで調香を学び実務を重ねた後、〈ミラーハリス〉をはじめ様々なブランドに携わってきた。自身のブランド〈Perfumer H〉を設立したのは2015年。アトリエとショップを構えるロンドンだけではなく、2022年にはパリにも店舗を構えた。香水の香りが苦手な石原だが、ハリスが作る香りは唯一心地良さを感じられるものだったことがオファーのきっかけとなったという。
ある地点に実在するものやその場所に石原が持つ記憶やエピソードなど、ハリスと交わした対話から生み出された香りは、《319》《321》《323》の3種。いずれも3種類の精油によるシンプルな調香で、名前には石原が実際に香りのインスピレーションを感じた地点の標高値が付けられた。例えば《319》は小笠原諸島の山頂展望台などが検索すれば見つかるが、その標高で感じた簡単な情景のみで具体的な場所は非公開のため、その短いテキストや香りから想像が掻き立てられる。
「香りの感じ方は経験に直結します。自分が〇〇の香りと感じたものも、他の人には違うものに感じることも。香りの着想源を名前にはせず数値のみにすることで、自身の過去の経験や記憶と結びつけて感じてもらえたら」