身体、知覚、無意識と向き合う。銀座メゾンエルメス フォーラムで感じとる多様な「インターフェアレンス」
フォーラムで開幕した。会期は6月4日まで。
本展では、フランシス真悟、スザンナ・フリッチャー、ブルーノ・ボテラ、宮永愛子の4アーティストによる作品を展示。それぞれの作品を通して、私たちの身体に日常的に干渉している出来事の微細な尺度や境界を浮かび上がらせ、皮膚や臓器といった身体の感覚や無意識とより深く向かい合う知覚のメディテーションを促すというものだ。
本展タイトルの「Interference」は、(光、音、電波や記憶などの)干渉、妨害、通信障害などの意味を持つ言葉であり、フランシス真悟が雲母を含む光干渉顔料を用いた「Interference」シリーズのタイトルでもある。本展でフランシスは、初めて手がけた大型壁画をはじめ、光の干渉によって様々な色を映し出す絵画作品を展示している。
レンゾ・ピアノが設計し、自然光がガラスブロックに注ぎ込む特徴的な展示空間での展示について、フランシスは「太陽や光の動きで時間が入ってくることに気づいた」と話す。「光が変化していくことで作品の色の変化が起こる。そして、私たちが太陽を回っているこの惑星に存在するという、自分の内面にある時間の変化にも広げていく」。
スザンナ・フリッチャーの新作《Pulse》は、会場に設置された複数の小さなモーターによって振動するシリコンの糸と金属製の円盤からなるもの。糸が空間のなかに潜む振動や波動を空気に伝達させ、円盤はその見えない振動を聞こえる音として転換させて増幅していく。また、鑑賞者は実際に作品のなかに入り込み、糸から伝達される振動を感じとることもできる。
フリッチャーは開幕にあたり、次のように語っている。「私たちが存在している世界では、環境的や経済的、社会的など、様々なインターフェアレンスが発生している。私たちが日頃を見逃しがちである自身の身体との関係性や現代の世界の在り方を、この作品を体験しながら感じていただけたら」。
もし銀座メゾンエルメス
フォーラムの会場を人間の身体と見立てると、通常公開されない倉庫やダクトは臓器と言えるだろう。こうした会場の裏側で作品を発表したのが、ブルーノ・ボテラだ。
ボテラは本展で、キュレーターのカリン・シュラゲターと対話し、本展の内部に入れ子式で展示への干渉・衝突を試みた。例えば、会場の裏側に展示された《寄宿》は、壁にかけられた機械式のベッドや粘土による立体物からなるもの。ボテラはこのスペースで一晩寝て、ベッドに空いたふたつの穴から手を突き出し、眠っているあいだに手の無意識な動きをとらえてかたどったのがその立体物だ。
本来、作家の意図が込められ、作業によって生み出される芸術作品だが、この作品はアーティストの意識下に潜む知覚を触発して完成したものだ。ボテラは、同作を通して芸術作品の本質や作品の展示空間、作品に対する鑑賞者の意識について問いかけているという。
宮永愛子は、2021年にコロナ禍による行動制限においてお茶会の作品《Voyage》を発表。宮永が席主となり、オンラインで一人ひとりが個別に参加するかたちで、日常生活から宇宙を感じてもらうというものだ。
本展の出品作品は、会場に置かれた写真や手紙、オブジェなどを通し、会場から離れた場所を感受する知覚を象徴し、時間が過ぎ去った痕跡を脳裏に刻もうとするもの。会期中(3月、4月、5月の21日で計3回)には、宮永による実会場でのお茶会も開催される予定だ。
本展キュレーターの説田礼子は美術手帖に対して「本展は何かを物語っているのではない」と話しているが、展覧会では各作家の作品をつなぐ一本の糸のようなものを感じた。
宇宙空間から地球に入ってくる光によって色彩が振れるフランシスの絵画と、地面から宇宙へと感覚が広がる宮永のオブジェ。展示空間のなかに潜む振動をとらえたフリッチャーのインスタレーションと、空間の裏側にある意識下の知覚を触発したボテラの立体作品。それぞれの作家の作品はミニマルな美意識を共有しながら、同時に互いに振動して響き合っているようにも見える。
説田は、「各アーティストの作品に対する解釈も自由自在だ」と述べている。光が満ちる展示空間で感覚を済まし、作品や心に響く振動と純粋に向き合ってほしい。