【動画公開!】町田康が「古事記」を朗読したら?神話のパワーが炸裂する『口訳 古事記』試し読み
日本最古の神話「古事記」を、町田康が口語訳したら? 「むちゃくちゃ面白い!」と話題沸騰の新刊『口訳 古事記』を、町田康自ら朗読したスペシャル動画が公開中だ。父イザナキに追放されたスサノオは、高天原にいる姉のアマテラスに会いに行く。しかし、弟が攻めてきたと思い込んだアマテラスは戦闘状態で待ち受けるのだった…。アナーキーな神々がぶつかり合う爆笑場面を動画付きでお送りする。
----------
扨(さて)、伊耶那岐命に永久追放を宣告された須佐之男命はそれからどうしただろうか。
「永久追放なんていやよー」
と言って暴れただろうか。いや、暴れなかった。暴れずにそれならそれで仕方がない、とこれを受け入れた。
と言ってでも、直ちに参ったのではない。ではどこに行ったか。天照大御神のいらっしゃる高天原に向かった。
「急に居なくなると向こうも心配するだろうから、やはり一言、挨拶をしてから旅立とう」
と考えたのである。
それはそれで義理堅くてけっこうなことなのだが、しかしいちいち動作が大きく、動く度に周囲のものがぶち壊れる。と言うと、物が落ちて割れるとか、向こうから来る人にぶつかったとか、そんな程度のことと思いがちだが、なかなか。
なにしろ泣くだけで山の木が全部枯れ、海が干上がるほどのパワーの持ち主がもの凄いスピードで天に昇っていくのだから、やれコップが落ちて割れた、茶瓶がこけたみたいなことで済む訳がなく、震度千の地震が揺すぶったみたいな感じになって、山も川もまるでアホがヘドバンをしているみたいに震動、国土全体が動揺してムチャクチャになった。
このことがすぐに天照大御神のところに報告された。
「ご注進、ご注進」
「何事です、騒々しい」
「えらいこってす。葦原中国が動揺してムチャクチャになってます」
「マジですか」
「マジです」
「なんでそんなことに」
「建速須佐之男命がこちらに向かって上昇中です」
これを聞いて天照大御神は動揺した。
あの心身のバランスを著しく欠いた弟の命。吾はいつも心配していた。あれがなにかのきっかけで逆上して高天原に暴れ込んでくるのではないか、と。ついにその日が来たのか。嫌なことだ。
そう思った天照大御神は部下に言った。
「日頃の言動から考えて吾の弟が友好目的で来るということはまずない。侵略意図を持っているのは明白です」
「マジですか」
「マジです」
「ど、どうしましょう」
「吾自身が武装して戦います」
「私たちは武装しなくていいのでしょうか」
「したところで弟には勝てない。あの人と戦えるのは吾のみ。仕度します。手伝いなさい」
「了解です」