ルネサンス期に華麗なる成功を収めた最初の女性画家、ソフォニスバ・アングイッソラ
ソフォニスバは、1532年頃にイタリア北部の町クレモナで、ビアンカ・ポンツォーネとアミルカーレ・アングイッソラの第一子として誕生した。ソフォニスバには5人の妹と1人の弟がいたが、父親のアミルカーレは、息子だけでなく娘たちにも高い教育を受けさせ、芸術を学ぶことを奨励した。なかでも、ソフォニスバの才能はやがて無視できないものになっていった。
16世紀のイタリアでは、若い女性が画家の道を志しても、プロのアトリエに弟子入りすることは認められず、男性の親族から指導を受けるほかなかった。しかし、芸術家ではなかったアミルカーレには娘を教えることができなかった。そこでソフォニスバは当時としては珍しく、14歳頃に画家のベルナルディーノ・カンピに師事することになった。
20代前半までカンピの指導を受けたソフォニスバは、その後ベルナルディーノ・ガッティの下で学び続けていたが、22歳の時にミケランジェロ・ブオナローティに出会う。ソフォニスバの才能に感銘を受けたミケランジェロは、彼女の学びを支援したいと申し出、作品の批評やフィードバックを与えるようになった。
1562年、ミケランジェロの友人がフィレンツェの名門メディチ家のコジモ1世に宛てて書いた手紙に、「ザリガニに噛まれた少年」と題されたソフォニスバのスケッチが1枚同封されていた。その友人は手紙のなかで、スケッチについて次のように説明している。「ソフォニスバの『笑う少女』の絵を見たミケランジェロが、『笑顔よりも泣き顔の方が難しい。今度は泣いている少年の絵を描いたらどうだ』と勧めたところ、ソフォニスバは弟をわざと泣かせてこの絵を描いたそうです」
ミケランジェロの作品にも似たような表情の人物画がいくつかある。ソフォニスバも、それらの絵を見たことがあったのだろう。それから40年後、今度はソフォニスバの描いたしぐさと表情に影響を受けたカラバッジョが、「トカゲに噛まれた少年」(1595年頃)を完成させた。カラバッジョの作品のなかでも特に表情豊かな人物画として知られている。