ヴェネチア・ビエンナーレの各国代表はどのように決まるのか? 選出方法3つのパターン、日本と海外の違いを比較・解説
第52回(2007年)以降、第58回(2019年)までの日本代表の選出プロセスは、①委員会が5名前後のキュレーター候補を選出し、②各候補から展示内容の提案書(プロポーザル)を提出させ、③その中からコンペティション形式で一展示を選出する、というものだった。
しかし、前回2022年(2021年開催の予定だったが、新型コロナにより2022年に延期された)のヴェネチア・ビエンナーレ日本館代表選出はそうしたプロセスから一変し、国際展事業委員会がアーティストにダムタイプを直接指名し、特定個人のキュレーターは設置されなかった。(*1)
第58回(2019年)までの選出プロセスが完全な透明性を持っていたとはいえないが、少なくとも指名された5名前後のキュレーターによるコンペ形式によって競争性があり、また提出された展示プランも選出されなかったものも含めて国際交流基金のウェブサイト上で公開されていた。突然の選出方式の変更は、これまでの状況からブラックボックス化を進めるものともとらえられ、議論を引き起こしていた。
いずれにせよ、日本館の代表選出プロセスはいま、変化の真っ只中にある。であれば、他国の現行の選出プロセスを参考として知っていくことは、議論をより実りのあるものにするだろう。ヴェネチア・ビエンナーレの参加国すべてを網羅することはできないが、いくつかの国の例を挙げてその方法を見ていきたい。特定の国の例を絶対的な規範とし追随することは危ういが、複数の方法論を比較・検討することで、より良い方法を探っていくための議論の礎としたい。
【代表館を出すまでの流れ】
まず前提として、そもそも、ヴェネチア・ビエンナーレに「代表館(ナショナルパビリオン)」を出すためにはどのような手続きがあるのだろうか。
ジャルディーニに常設パビリオンを持つか、アルセナーレに長期パビリオンを持っている国の場合は、それぞれの国の文化大臣や外務大臣といった、文化・外交を代表する立場の人間がパビリオンの最高責任者となるコミッショナーを任命し、任命されたコミッショナーからビエンナーレ側に参加申請を提出することとなる。
それ以外の国については、文化大臣や外務大臣などの立場からビエンナーレ側に対して参加申請を行い、その国の代表として認定されるという形になる。一国、一共同体につき一代表館が原則であり、代表館として認定された展示とは別のオルタナティブな動きで作られた展示が、国の代表として認定を得ることはできない(こうした一国一パビリオンの仕組みによって、誰が文化大臣のお墨付きを得たかという問題も生じうるといえる)。
第59回(2022年)のナミビア館に対しては、「これは我々を代表するパビリオンではない」という声明がナミビアのアーティストたちから発表されることとなった)(*2)。追って、公式な公開前にキュレーターの任命をビエンナーレ側に報告したり、展示計画書を提出したりすることとなる。(*3)
【選出方法の3つのパターン】
では、本題の各国代表アーティストの選出方法に入っていきたい。
大きく分類すると、
・選考委員会がアーティストを選出
・選考委員会がキュレーターを指名し、そのキュレーターがアーティストを選出
・公募
の3パターンに大別できる。
【1、選考委員会がアーティストを選出】
まず、選考委員会がアーティストを選出していく方式について見ていく。基本的に、選考委員らから推薦されたアーティストリストの中からそれぞれの方法で候補を絞っている。
イギリスの代表は、文化教育機関であるブリティッシュ・カウンシルのアートチームが、イギリス中の専門家と協力してアーティストを直接選出している(*4)。また、代表を選出するアドバイザリーパネルのメンバーはアート・建築の各ビエンナーレごとに毎回入れ替わる。(*5)
カナダ館の運営はカナダ国立美術館が担っており、こちらも委員会によるアーティストの指名式となっている。(*6)
フランスでも、アンスティチュ・フランセの主導により組織された委員会によってアーティストが選出される。選出は投票制であり、選出されたアーティストがキュレーターを指名できることが明記されている。(*7)
アーティストの指名に指名コンペ制を採っている国もある。スペインは外務省、国際開発協力庁、スペイン文化活動がパビリオンをプロデュースしており、第60回(2024年)のビエンナーレでは、委員会の1回目の会議で5名のアーティストを選出したうえで企画提案書の提出を依頼し、2回目の会議で投票によって展示プランを決定している。(*8)
そして日本でも、今回、第60回(2024年)の選出では最終候補として5人のアーティストに絞られたうえで展示プランの提出を依頼する指名コンペ制が取られた。第59回(2022年)の日本館は委員会が直接一組のアーティストを指名する形だったが、今回の方法は2019年のビエンナーレまでのキュレーターの指名コンペ制をアーティストに適用したかたちになったともいえる。(*9)