ニューヨーク通信:Photobook Now vol.2
大学では英語学部を専攻し、写真は独学で学んだというスモールウッド。初の写真集『Languor』には、2020年7~10月にセントラルパークで撮影された写真が収録された。ブラックアメリカンのポートレイトと風景写真で構成された本書は、彩度の低いモノクロ印刷が繊細さを引き立て、余白を生かしたレイアウトによって写真一点一点をゆっくり味わえる1冊に仕上がっている。
スモールウッドはコロナ禍において、セントラルパークを歩きながら写真を撮ることで状況を理解しようとする日々を送っていた。その際に、偶然見た『The Lost Neighborhood under New York’s Central Park』というドキュメンタリー番組が、本作を製作するきっかけになった。その番組は、現在のセントラルパークの一部は、19世紀中頃までアイルランド人とアフリカ系アメリカ人が居住するセネカ・ビレッジと呼ばれる居住地区であったが、都市開発計画によって破壊された歴史を伝える内容であった。ブラックアメリカンとして、行政が人権よりアメリカのランドマークとなる国内初の公共公園の建設を優先した点に腹立たしく思うと同時に、もともとは荒野であった土地が居住地に生まれ変わり、それがまた人の手によって公園へと変わり、現在は多くの人々が自然を堪能できる場になったことに心を動かされたという。インタビューでは、本作を通して、時代の流れによって変わる「自然」と「人間」の関係性を静かにとらえようとしたと答えてくれた。公園を行き交う人たちに声をかけて撮影したポートレイトは、中判カメラのペンタックス67を3脚に立て、ひとりにつき1ロール、10分ほどの時間をかけて撮影された。また本書は、10年以上スモールウッドの作品を見続け、ときには助言を与えるメンターのような存在である編集者と二人三脚で丁寧に作られた。サリンジャーとナボコフを愛読書とする読書好きのスモールウッドにとって、この本はセントラルパークへ哀愁を込めて書き上げた小説のような1冊だという。