2023年のプリツカー賞を受賞したデイヴィッド・チッパーフィールド。その建築的特徴と受賞の理由とは?
建築界のノーベル賞と称されるプリツカー賞を、今年はサー・デイヴィッド・チッパーフィールドが受賞した。言わずもがなイギリス建築界の雄だが、彼の作品と聞いてパッとアイコンのように特定の建物や独特なフォルムが思い浮かぶ人は多くないかもしれない。数々の美術館や都市計画など代表作はあまたあるにもかかわらず、なぜなのか。審査委員長を務めたアレハンドロ・アラベナの言を借りよう。
「多くの建築家がコミッションを自分のポートフォリオに追加する機会と見なしている世界で、彼はプロジェクトごとに細心の注意を払い、個々に応じ設計を手がけます。力強く記念碑的なデザインが必要とされる場合もあれば、ほとんど姿=自らのデザイン性を消す必要がある場合もあるからです」(アラベナ)
“ほとんど姿を消す”。あえて言えば、それがチッパーフィールド建築の真骨頂かもしれない。ベルリンの〈新国立美術館〉など改修作品も多いが、新築作品でもチッパーフィールドは常に歴史に立ち返り、周囲との関連性を注意深く考察する。そして新しい用途や機能を取り入れつつ、あたかも以前からそこにあったような空間を出現させる。彼は言う。
「都市は歴史の記録であり、ある瞬間以降の建築は歴史の記録です。都市は動的であるため、ただそこにとどまるのではなく、進化します。そしてその進化の中で、私たちは建物を取り除き、別の建築に置き換えます。保護される建物もありますが、それだけでは不十分で、都市の進化の豊かさを反映する建築の本質も理解すべきなのです」(チッパーフィールド)
チッパーフィールドは独立したばかりの頃、ロンドンの〈ISSEY MIYAKE〉の店舗を設計したことを契機に日本で数々のプロジェクトを手がけ、それが彼の作風に与えた影響も少なくない。
「日本での初期の仕事の経験を通し、日常生活を向上させる建築の静かな力についての理解を深めました」(チッパーフィールド)
“建築の静かな力”で、突出するのではなく都市に溶け込む彼の作品は、トレンドとは無縁なため、「常に時の試練に耐えます。ファッショナブルなものを避けることで、永続的に留まることができるのです」(アラベナ)
寿命の長い建築は、気候変動と社会的不平等などの社会問題にも果敢に取り組むチッパーフィールがまさに目指しているところだ。
「建築家として私たちは、より美しく、より公平で、より持続可能な世界を創造する上で、より際立った役割を果たさなければなりません」(チッパーフィールド)