いきものがかりは気付いた。「みんなが聴く音楽」が空いている ソングライター・水野良樹さん
水野良樹さん(以下、水野):はい、もちろんです。
――水野さんと澤本さんの、最初の出会いはいつだったのですか。
水野:僕のTwitterに澤本さんがコメントをくださったのが始まりですよね。
澤本嘉光さん(以下、澤本):結構前の話で、10年ぐらい前にさかのぼるでしょうか。水野さんはもちろんアーティストなのですが、曲の作り方とか、打ち出し方とか、さりげない姿勢の背後に、いろいろな戦略を決めてやっていることが感じられて、それらを含めてクリエーティブ・ディレクターっぽいなと、僕はずっと思っていました。それで「水野さんはクリエーティブ・ディレクターじゃないか」というようなコメントをしたら、喜んでくださって、というのが僕にもすごくうれしいことで。
水野:褒められたら即、飛び付くみたいな(笑)。それで僕が返信させていただき、そこから共通の知り合いを通したりして、一緒にご飯に行かせていただいたりしながら、ご縁がつながってきた、という感じですかね。
――澤本さんの対談シリーズは、2012年に第1弾を連載していましたが、その時に、水野さんにもお声を掛けたことがありました。ただ、とてもお忙しい時期で、うまく日程が合わず、水野さんから丁寧なご連絡をいただいたことを覚えています。その時から、澤本さんは「水野さん、水野さん」と言っておられたわけです。
水野:ありがとうございます。
●仮面浪人していた「いきものがかり」
澤本:とにかく水野さんは、めっちゃ頭がいい人で。
水野:いやいや、何をおっしゃる。
澤本:かねて水野さんがやっていることに、意思と戦略をすごく感じていたので、ついTwitterなんかで「この人はクリエーティブ・ディレクターだ」と書いたわけですが、そこは今もリアルにそうだと思っているんです。あともう一つ、水野さんが「いきものがかり」でデビューしてすぐの頃に、僕が担当したCMで、水野さんの「KIRA★KIRA★TRAIN」という曲をお借りしたことがありまして。
水野:本当にデビューしてすぐ。デビューアルバムに入っているような曲なんですよね。
澤本:CMって普通はクライアント1社で作るものですが、その時は3社合同のキャンペーンで、CMの秒数も60秒、90秒で作ったんです。それで「KIRA★KIRA★TRAIN」というすごくいい曲をお借りできた時から、ずっとお世話になっています。ただ、一応これは「日経ビジネス」の対談だから、ビジネスの人たちに向けた話をしないといけないのかな、と。
――面白いお話なら何でも結構ですから。
澤本:ということで、水野さんがどうやって音楽をやろうと思ったのか、というあたりから伺いたいのですが。
水野:高校時代に同級生の山下穂尊と、友人の妹で1学年下の吉岡聖恵と3人でグループを組んで、路上ライブなどを続けていました。それで、大学時代にインディーズでデビューをして、大学を卒業した同じ年に、メジャーデビューをさせていただきました。
澤本:大学は都内の私立大から一橋大学に入り直したんですよね。
水野:もともと一橋大学に行きたい気持ちがあり、1年間、仮面浪人という形で受験勉強をして一橋に入った、というのがネタとしてはありまして。
――仮面浪人で初志貫徹という例は、少ないのではないでしょうか。
水野:親からは「浪人をさせる気はないよ」と言われていましたし、僕にしても、あと1年食わせてもらわないといけないな、という気持ちがありました。予備校の代金や、再入学の入学金がさらにかかったりするので、申し訳ないとは思ったんです。でも、自分の中であきらめきれない思いがあって、再受験にかかるお金は自分で払うから、ということで、早朝にバイトをして、昼は大学で授業を受けて、夜は予備校で受験勉強する、という日々を1年間続けました。
――すごい……。
澤本:しかも、当時は「いきものがかり」の活動もしていたわけですよね。