草月会館でイギリス人現代アーティストの個展が開催
今回の展覧会は、2018 年に同じく草月会館石庭で開催された個展の第二章と位置づけられ、床面から天井に達する光の柱作品に加え、クリスタルガラス製のフルートが自動演奏される立体作品、マルセル・プルーストの『失われた時を求めて』の日本語訳の一部を基にした大型ネオン作品を展示する。
エヴァンスが関心を寄せるのは、文学、映画、美術、天文、物理など幅広い分野における先人たちの先駆的な試み。具象を徹底して排することで物語の情景の生成を観客に委ねる「能」や、人間が外界を認識する方法を問う現象学、自然界に存在するすべての物質の最小構成要素を探る素粒子物理学といった情報伝達の手段を、作家はテキストや記号、イメージ、光、音などを運ぶ器として捉えているという。
和歌における「本歌取り」のように、これらのコンテンツを別の器に移し替えることで、元の器では現れなかった美しさを召喚し、作品の背後にあるコンセプトを重層化させていくのが、エヴァンスの作品の性質と言えるだろう。
展覧会会場では、イサム・ノグチ作の石庭「天国」に、ゆっくりと明滅を繰り返す光の柱、能舞台にならって石庭の適所に松の木が配される。この舞台に加わるのが、37本のクリスタルガラス製のフルートとコンプレッサーで構成される、自動演奏作品《Composition for 37 flutes》(2018年)。アルゴリズムに基づき自動でフルートに空気を送る同作は、静かに呼吸するかのように和音、そして不協和音を奏でる。これらのコンビネーションは、舞台と化した石庭「天国」における無形の舞台装置として機能するだろう。
このほかにも、石庭の最上段には、吉川一義によるマルセル・プルースト『失われた時を求めて』第四篇「ソドムとゴモラ」(1921/22年)の日本語訳を基にした、大型ネオン作品《F=O=U=N=T=A=I=N》(2020年)が設置される。
ギャラリーや美術館とはひと味違う空間で、光と音と言葉の共鳴を体験したい。