2022年のサーペンタイン・パビリオンは、シアスター・ゲイツの《ブラック・チャペル》|山下めぐみのロンドン通信
2000年以来、ロンドンの〈サーペンタイン・ギャラリー〉の前に登場する建築パビリオン。ザハ・ハディドに始まり、フランク・ゲーリーやピーター・ズントーなど世界の巨匠、日本からは伊東豊雄、SANAA、藤本壮介、石上純也の作品が建てられてきた。
ここ数年は世の中の流れを反映し、若手やマイノリティーからの人選が行われてきた。今回セレクトされたのは、アメリカの黒人アーティスト、シアスター・ゲイツである。
《ブラック・チャペル》と名付けられたパビリオンはシンプルなデザインだが、さまざまな意味が込められたもの。また、交流の場であり、何かが起こるための「器」でもある。直径16m、高さは10mほどの円筒型。ファサードは木と屋根葺き材のアスファルトシートで覆われ、細長い2つの出入口がある。外観に続き、中も壁、天井、床と全てが黒一色だが、ローマのパンテオン神殿のようにドーム天井の真ん中には直径3mの丸い穴がぽっかりと空いている。ここから太陽の光が差し込み、また雨もそのまま降り注ぐ。壁に設置されたシルバーに光る7枚の《タール・ペインティング》は、ゲイツがこのパビリオンのために制作したもので、屋根を葺くようにバーナーで溶接するなどして制作されている。これらは屋根職人だった父に捧げられたものであるという。
多岐に渡る作品を制作してきたゲイツだが、その原点は陶芸にある。若い頃には日本の愛知・常滑で1年過ごしたとのことで、その後も定期的に常滑での作陶を続けている。陶芸に惹かれるのは「土からできる」点だと言うゲイツ。今回のパビリオンもイギリスのボトルオーブン窯のイメージであり、またパビリオン自体が何かを入れる「器」である、という意味合いがある。
ゲイツは、治安と貧困が問題視されるシカゴのサウスサイドを再生する「ドーチェスター・プロジェクト」でも知られている。空き家を買い取って手を入れ、各種ワークショップを主催したり、スタジオや住居を提供するなど、アートを通して地域と黒人コミュニティの再生に尽力してきた。旧銀行の〈ストーニーアイランド・アーツバンク〉はスライドや本、レコードを収蔵するアートセンターに再生させている。